2014年9月9日火曜日

自殺率の年齢曲線の変化

 あまり知られていませんが,わが国の自殺率は今世紀になってから減少の傾向にあります。人口10万人あたりの自殺者数(自殺率)は,前世紀末の1999年では25.0でしたが,2012年では21.0にまで下がっています(厚労省『人口動態統計)。

 しかしこれは全体のトレンドであって,年齢別にみると様相は一様ではありません。私は,上記の両年について,年齢別の自殺率を計算しました。当該年の自殺者数を,同年10月時点の推計人口で除した値です。分子の出所は厚労省『人口動態統計』,分母は総務省『人口推計年報』なり。

 最近は当局の公表データが充実してきており,分子・分母とも,1歳刻みの細かい数字を得ることができます。私は今38歳ですが,2012年でいうと,この年齢の自殺者数は437人,同年齢人口は199万人ほどですから,自殺率は22.0となります。ベース10万人あたりの自殺者数です。

 この要領で,0~80歳までの自殺率を年齢別に算出しました。下の表は,1999年と2012年の年齢別自殺率を整理したものです。


 どうでしょう。右端はこの13年間にかけての増減ポイントですが,40代以降の中高年層では,自殺率が軒並み減少しています。この期間中,この層を対象とした自殺防止対策が実施されましたが,その効果の表れともいえるでしょう。

 しかるに,若年年層はさにあらず。自殺率が2ポイント以上アップした年齢に黄色マークをつけましたが,20代のほとんどに色がついています。21歳,23歳,25歳,26歳は5ポイント以上の増です。自殺率は「生きづらさ」の指標ですが,近年の若者の苦境を思うと,さもありなんです。

 上表のデータをビジュアル化しましょう。各年齢の自殺率を線で結んだ年齢曲線を描こうと思いますが,上記のデータをそのまま折れ線にすると,凹凸がかなり激しくなります。そこで,移動平均法を用いて,曲線を均すこととします。

 ある年齢の自殺率を,前後の率との平均をとった値に換算します。たとえば22歳の自殺率は,21歳,22歳,23歳の率の平均値にするわけです。2012年でいうと,(19.4+20.7+23.7)/3=21.3となります。

 各年齢の自殺率を,このように移動平均値にすると,描かれる曲線が滑らかになります。このやり方による,1999年と2012年の自殺率年齢曲線をご覧いただきましょう。


 今世紀になってから,50代のお父さん層の自殺率は大きく下がりました。前世紀の末は,山一證券の倒産(97年)とかもあり,この年代の男性のリストラ自殺が頻発した経緯があります。

 ところが,10代後半から20代に限ると,自殺率は上昇しています。この層だけの固有の傾向です。近年の困難は,若年層に凝縮されていることが知られます。将来展望不良,シューカツ失敗自殺・・・。解釈の材料には事欠きません。

 8月2日の記事では,青年層の自殺率推移の国際比較をしたのですが,わが国は,90年代以降の「失われた20年」にかけて,一気にトップに躍り出ていました。

 この記事をみてくださる方が多かったのですが,あるNPOの方より,「日本の青年の自殺率増加はよく分かったが,これは青年に固有の傾向なのか。他の年齢層はどうなのか」という質問のメールをいただきました。そこで今回,青年層のトレンドを全体の中に位置づけるため,こういうデータをつくった次第です。

 まあ確かに,青年だけを切り取るというのは,情報としては不足でした。そういうば渡部教授も,青年の自殺率だけを観察するだけでは不十分で,当該の社会で自殺がどれほどこの層に集中しているかを吟味しないといけない,と書いておられました(「青年期の自殺の国際比較」『教育社会学研究』第34集,1979年)。

 貴重なご意見の提供に感謝申します。