現在は教職危機の時代といわれますが,その度合いは,離職率のような統計指標によって教えられます。本ブログでは,日本の教員の離職率について度々分析してきました。*たとえば以下の記事。
http://tmaita77.blogspot.jp/2013/11/blog-post_17.html
しかるに,前から国際比較をしてみたいと思っていました。教員の危機状況は社会によってどう違うか,国際的な布置構造の中で日本はどういう位置にあるか。オーソドックスな問いですが,これに答えてくるデータを目にしたことはありません。
こういう側面を可視化するには,離職率のような行動の指標がベストなのですが,あいにく国際統計は存在しません。ですが,教職という自らの仕事についてどう思っているかという意識は国別に知ることができます。
わが国の教員が世界一働いている(働かされている)ことを暴露してくれた,OECDの国際教員調査「TALIS 2013」ですが,本調査には職業満足度を問う設問も盛られています。対象となった各国の中学校教員に対し,以下の10の項目が提示されています。教員質問紙調査のQ46です。
http://www.oecd.org/edu/school/talis-2013-results.htm
いずれも職業満足度(Job Satisfaction)に関わる項目ですが,これらへの反応を合成することで,各国の教員の職業満足度を計測する総合スコアを出してみようと思います。
上表の選択肢の番号は,職業満足度を測る点数として使えます。「1」は1点,・・・「4」は4点です。網掛けをした3項目(③,④,⑥)はネガティブ項目ですので,スコアを反転させます。「1」を選んだ場合は4点,・・・「4」を選んだ場合は1点を与えます。
この場合,対象となった中学校教員各人の職業満足度は,10~40点のスコアで測られることになります。全項目とも1点の超不満足教員は10点,全項目とも4点のスーパー満足教員は40点となる次第です。いずれかの項目に無回答がある教員は,スコアの正確な計算ができないので,分析から除外します。
私はこのやり方で,32か国9万7046人の中学校教員の職業満足度スコアを計算しました。ローデータが手元にありますので,こういう操作も自由自在です。ありがたや。
手始めに,日本の3383人とアメリカの1821人のスコア分布をみていただきましょう。下図は,百分比の折れ線による分布曲線です。
両国ともノーマルカーブに近い型ですが,アメリカのほうが高い側に分布しています。30点以上の者の比率をとると,日本は35.5%ですが,アメリカでは59.9%もいます。
この分布を単一の代表値(平均値)で読みとると,日本は27.9点,アメリカは30.9点となります。中学校教員のトータルな職業満足度は,海を隔てた米国のほうが高いようです。
私は同じ分布データを32か国について作成し,各々の平均値を出してみました。この値でもって,各国の中学校教員の職業満足度(裏返すと職業危機度)を比べてみましょう。下の図は,値が高い順に並べたランキング図です。
どうでしょう。日本は下から2位という位置です。27.8~33.2というレインヂの相対位置による判定ですが,日本は世界の中で教員の職業満足度がかなり低い社会であることが知られます。先ほどサシで比較したアメリカが中央よりちょっと上くらいで,トップは中米のメキシコです。
まあ,日本人はこの手の調査に対してはニュートラルな回答をする傾向がありますので,いくらか割り引いて考える必要がありますが,統一的な手続きで割り出した,教職危機の国際統計とみていただければと思います。しかし,最近のわが国の教員が置かれた状況からして,「さもありなん」という印象を持たれた方も少なくないでしょう。
次なる関心は,このスコアが低いのはどの層かです。男性か女性か,若年か年輩か,都市か農村か・・・。絡めてみたい属性変数は多々あります。その結果によって,どういう政策をとるべきかも変わってきます。幸い,日本の有効サンプルは3383もありますので,こうした属性別のスコア平均を出すことも十分可能です。
何度も言いますが,自由に操作できるローデータが手元にあるって素晴らしい。余談ですが,文科省の『全国学力・学習状況調査』のローデータが,広く一般に公開される日を夢にまでみます。