3年間隔で実施されているOECDの国際学力調査(PISA)ですが,対象は各国の15歳の生徒です。日本では,高校1年生の生徒が対象となっています。
周知のように,わが国の高校は有名大学への進学可能性に依拠して精緻にランクづけられています。「上位校,中位校,下位校」,「進学校,普通校,底辺校」といった言い回しは,死語ではありません。
当然,これらの学校タイプによって生徒の学力は異なるでしょうが,その程度はどれほどか。他国と比べてどうか。PISA2012の読解力,数学的リテラシー,科学的リテラシーの平均点をもとに検討してみようと思います。
http://pisa2012.acer.edu.au/
上記調査では,調査対象となった高校の校長に対し,自校に対する保護者の期待について尋ねています。以下のうちから一つを選んでもらう形式です。
①:非常に高い学業水準を設定し,生徒にこれに見合った高い学力をつけさせていくことを期待する圧力を常に多くの保護者から受けている。
②:生徒の学力水準を高めていくことを期待する圧力を,小数の保護者から受けている。
③:生徒の学力水準を高めていくことを期待する圧力を,保護者から受けることはほとんどない。
安直ですが,①の高校を上位校(A),②を中位校(B),③を下位校(C)と見立てることにしましょう。PISA2012のサンプルでみると,日本の生徒は①が23.7%,②が50.4%,③が25.9%と,測ったようにきれいに分布しています。
私は,読解力,数学的リテラシー,科学的リテラシーの平均点を,これらの群ごとに出してみました。下の表は,日本とアメリカの結果です。
両国とも「A>B>C」という傾向です。保護者からの教育期待が高い高校ほど,生徒の学力が高くなっています。
これはまあ当然ですが,その差はアメリカよりも日本で格段に大きくなっています。日本でみると,A群とC群の平均点の差は読解力が94点,数学的リテラシーが103点,科学的リテラシーが92点にもなります。いずれも米国の倍以上です。
( )内の生徒数の%をみればわかりますが,3群の分布が歪というのではありません。C群の生徒がマイノリティーというわけではありません。日本の場合,「1:2:1」と,実にきれいな比になっています。高校進学時における,学力による選抜・配分が精緻になされていることの証左でしょう。
以上は日米比較ですが,PISA2012の調査対象となった65か国について,同じデータを作りましたので,それをご覧にいれましょう。A群とC群の差が大きい順に並べたランキング表にすると,下表のようになります。前後しますが,点数の分散が大きいとみられる数学的リテラシーに焦点を当てています。
学校差が最も大きいのはハンガリーで,その次が日本となっています。3位は,お隣の韓国。ハンガリーの事情は存じませんが,日本と韓国は,世界でも有数の学歴社会。有名大学進学可能性に依拠した,高校の階層化が顕著な社会です。
一方,欧米主要国は学校タイプの差が小さくなっています。
表の下をみると,A群よりC群の平均点が高い社会もあります。これは,もともと高い学力が入ってくる高校では保護者の圧力は小さく,そうでない生徒が多い高校は圧力が大きい,ということかもしれませんね。
今回のデータから,日本の高校の階層化が未だに顕在であることが示唆されます。それぞれの高校は,階層構造内の位置に応じて,「上位校,中位校,底辺校」といった眼差しを日々こうむっています。そのことが生徒の自我形成に影響しないはずはなく,こうした学校タイプに応じて,学力だけでなく,生徒の自己イメージ,問題行動の発生頻度などが大きく異なることも,またよく知られています。
80年代のころは,こういう高校格差の分析がよくなされていたのですが,最近はあまり見かけません。しかし,青年期の人格形成を強く規定する,この巨大な社会的装置の機能を侮るべきではないでしょう。教育社会学の重要テーマであり続けるべきです。
PISA2012では,生徒の出身階層や対教師関係,学校適応の設問も設けられています。これらの回答が,上記の学校タイプに応じてどう変異するか。ローデータによるクロス集計が,次の作業課題です。