2015年10月24日土曜日

年齢層別の貧困率の国際比較

 貧困率。いわずとも知れた指標です。国内の年収の中央値の半分に満たない世帯で暮らす人間が,全体の何%いるかです。

 年収の中央値の半分ですが,最近の日本でいうと,おおよそ200万円ちょっとというところです。このライン(貧困線)に満たない年収の世帯に属する人間は,貧困者と判定されます。この相対的貧困者が全国民に占める割合(相対的貧困率)は,だいたい15%,6~7人に1人といわれています。

 これは国民全体の数値ですが,この意味の貧困率は,年齢層によって違います。子ども,青年,壮年,中年,そして高齢者。こういう年代別の数値は,あまり見かけません。国別データとなると,なおさら。

 しかし,有効な貧困対策を打ち立てるには,こういう細かいデータの観察も必要でしょう。希少な資源をどこに重点的に振り当てるかを考えるにあたっても,ぜひとも見ておきたいデータです。

 OECDの「Income Distribution Database(IDD)」というサイトにて,それを知ることができます。データベースをちょっと操作することで,各国の年齢層別の貧困率を呼び出すことができます。
http://www.oecd.org/social/income-distribution-database.htm

 私は,2009年のデータを採集しました。やや古いですが,日本の最新の数値が2009年となっていますので,他国もこれに合わせました。オーストラリア,メキシコ,ロシアの3国は2009年の数値がないので,翌年の2010年のデータを拾っています。

 下に掲げるのは,35か国の年齢層別の貧困率です。繰り返しますが,年収が中央値の半分に満たない世帯で暮らす者が全体の何%かです。最高値には黄色,最低値には青色のマークをしました。赤字は上位5位です。


 日本の貧困率は,76歳以上の高齢層が最も高くなっています。22.8%で,35か国の中で5位です。その次の要注意層は,18~25歳の青年層です(18.7%)。近年の青年層の貧困化を思うと,さもありなんですね。

 しかし青年層の貧困率がもっと高い国があり,トップはノルウェーです。スウェーデンやデンマークも上位に入っています。高福祉社会ですが,若者にかかる税金が重いのでしょうか(今回の国際統計は,税引き後の年収に依拠して算出されています)。

 チリ,イスラエル,スペイン,トルコ,ロシアなどでは,0~17歳の子どもの貧困率が最も高くなっています。子どものいる世帯に,資源の再配分の重きを置くべき社会です。

 イスラエルとメキシコは赤字がたくさんで,国民の貧困化が激しいようです。その逆は,北欧のデンマーク。

 子どもの貧困率ですが,全体でみたら日本は15.7%,およそ6人に1人ですが,一人親世帯に限ると50%を超えます。2人に1人で,これは世界トップです。わが国では,両親のいる標準家庭を前提に諸々の制度設計がされているので,一人親世帯は困難に直面するのでしょう。一人親世帯の貧困化が最も進んだ社会。この点は,押さえておくべきかと思います。詳細は,4月8日の日経デュアル記事にて書きました。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=4972

 お隣の韓国ですが,高齢層の貧困率がメチャ高です。この国は,66歳以上というようにカテゴリーがまるまっていますが,45.5%で飛びぬけています。高齢者の2人に1人が貧困と判定されるわけです。

 この儒教社会では,子が親の面倒をみる伝統があったので,高齢者は収入がなくともやっていけました。しかし最近,それが急速に崩れているといいます。しからば国による社会保障はというと,それはほぼ未整備。よって,生活苦にさらされる高齢者が増えているのでしょう。下記ツイートの図にみるように,韓国の高齢者の自殺率は激高です。
https://twitter.com/tmaita77/status/657529734771769345

 韓国の高齢人口比率(65歳以上人口率)は11%ほどですが,もっと高齢化が進めば,社会の根幹が揺らぐ事態になるでしょう。しかし,高齢化レベルの点でいうと,日本のほうがはるかに進んでいます。それでいて,高齢者の貧困率が2割を超えているのですから,問題が深刻なのは,わが国も同じです。

 上表の高齢者の貧困率を,高齢化レベル(高齢人口率)と関連付けて表現してみましょう。各国の高齢人口率は,国連の人口推計サイトより得ました。2010年の推計値です。これを横軸に据えます。
http://esa.un.org/unpd/wpp/

 縦軸に据える高齢者の貧困率は,66歳以上の貧困率です。韓国が66歳以上にまるまっていますので,他国もそれに合わせます。2010年の65~74歳と75歳以上人口の比重を勘案して,66歳以上の貧困率に計算し直しました。


 こういう布置図になります。高齢者の貧困率が高い韓国やオーストラリアも大変ですが,高齢層の量を勘案すると,右上の社会,とりわけ日本も事態が厳しいのは同じです。右下のヨーロッパ型への移行が求められます。右側へのシフト(高齢化)は不可避ですが,タテにどう動くかは,国の政策にかかっています。

 今回の国際統計から,貧困対策の重点層が,社会によって異なっていることが知られます。社会は,様々な層からなります。全体観察の後に必要なのは,こうした部分観察です。