2016年1月13日水曜日

首都圏の遠距離通勤率マップ

 満員電車のストレスは「戦場以上」という研究結果が出て,話題になっています。毎朝ぎゅうぎゅうの満員電車で通勤する日本の企業戦士は,まさにソルジャーなわけです。

 片道1時間半や2時間を超えるとなれば,そのストレスは尋常ではありません。生産性にも大きく影響していることでしょう。

 私は東京都多摩市に住んでいますが,この市から都心に通勤している方は多いと思います。私も,授業期間中は武蔵野大学有明キャンパス(江東区)に出講しますから,そのうちの一人です。片道1時間半ほど,乗り継ぎが悪いと2時間以上かかります。

 授業は5限ですので,帰りはもろにラッシュです。大崎から新宿までの埼京線の混み具合といったら,もう殺人的。週1日だけならまだしも,これを週5日もとなったら,とてもじゃないですが私には耐えられません。

 しかし首都圏(1都3県)では,長時間の満員電車通勤を余儀なくされる人が少なくありません。私が住んでいる多摩市のような近郊地域は,なおのこと。はて,それをデータで可視化するとどうなるか。

 2013年の総務省『住宅土地統計調査』によると,主たる家計支持者が雇用労働者である普通世帯数は,多摩市では25560世帯。そのうち,主たる家計支持者の片道の通勤時間が90分(1時間半)を超える世帯は2690世帯です。割合にすると,10.5%となります。ひとまず片道90分を遠距離通勤のラインとすると,多摩市では,雇用者(世帯主)の10人に1人が遠距離通勤をしていると。

 一方,都心の中央区ではこの比率はたった1.2%です。当たり前ですよね。この遠距離通勤率の地図を描くと,「やはり」という模様になります。下図は,首都圏214市区町村の遠距離通勤率マップです。


 小学校の社会科で習った「ドーナツ現象」を思わせます。遠距離通勤は中心部で少なく,それを円状に囲む郊外地域で多いと。いやあ,統計とは実に正直です。

 濃い色は遠距離通勤率10%超の地域ですが,20%(5分の1)を超える地域もあります。マックスは神奈川県葉山町で,90分以上の遠距離通勤率は28.0%と,3割近くにもなります。三浦半島のつけ根のあそこです。

 自分の地域は何%ほどかという関心もあるかと思いますので,214市区町村の値の一覧をお見せしましょう。下の表は,値が高い順に並べたランキング表です。


 赤字は15%を超える地域です。長時間通勤に疲れきっている労働者が相対的に多い地域です。神奈川(とくに三浦半島)の市町が多くなっています。埼玉の小川町もランクイン。東武東上線で池袋まで出て,そこから地下鉄などで都心に向かうとしたら,ゆうに90分は超えるでしょうね。そして帰りも90分以上かけて帰路につくと。

 遠距離通勤が多い地域は,労働者は自地域にはただ寝に帰るだけ。よって地域への関心も薄くなり,地域連帯も乏しくなる。昔読んだ犯罪学の本にこんなことが書いてありましたが,そういう面もあるでしょうか・・・。

 オフィスは中心部に集中していますが,労働者は住宅費の安い郊外に居を構える。長時間の満員電車通勤が多くなるのは道理です。師匠のご子息は,満員電車に乗るのを嫌い,都心とは逆方向にオフィスがある会社を志望し,そこに就職されたと聞きます。私もそうするでしょうね。

 ネットが発達するにつれ,オフィスに出勤する必要はなくなり,在宅の勤務形態やオフィスの郊外移転も増えてはくるでしょう。報奨金の給付などの形で,それを促すことはできないものか。

 日本の労働者の生産性が低いことは有名ですが,地獄の長時間・満員電車通勤という条件を除くことができれば,それはかなり改善されるのではないか。だとしたら,そのための投資も損とはいえないように感じます。