2016年1月31日日曜日

新規不登校児出現率

 今朝の朝日新聞Web版に,「小・中学生の新規不登校者数,およそ6.5万人」という記事が載っていました。
http://www.asahi.com/articles/ASJ1V4V9YJ1VUTIL02C.html

 2014年度間に,心理的要因により年間30日以上欠席した小・中学生は12万1677人。この中には,前年度からの継続者5万7095人が含まれますが,それを除くと6万4582人。これが,上記の記事でいわれている,小・中学生の新規不登校者数です。2014年度間に,新たに不登校の状態となった児童・生徒の数に相当します。

 文科省の報告書では,「昨年度間の不登校児は**人」といわれることが多いのですが,この中には前年度からの継続者も含まれます。この部分は除外して,当該年度に新たに発生した不登校の数を拾うのがよいかもしれませんね。朝日新聞が,当局の公表数値を独自に加工して出したものだそうです。よい所に目を付けたなと,敬意を表します。

 この新規不登校児数のトレンドは,当局の資料に載っている,継続分込みの数値とはやや違った様相を呈しています。2014年度間の小・中学生の新規不登校児数は6.5万人ほどですが,この数はどう推移してきているのでしょう。

 文科省『児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査』は,2002年度分よりネット公開されています。この年度からの推移をたどってみました。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/shidou/1267646.htm


 小・中学生の新規不登校児数は,2007年度に6.6万人とピークに達した後,2012年度まで減少しますが,その後再び上昇に転じています。上述のように,2014年度ではおよそ6.5万人。

 しかし,全児童・生徒数で除した出現率は,2014年度が観察期間中でマックスです。0.64%,およそ156人に1人の出現率です。

 まあ,継続分も含めた不登校の全数も最近増えているのですが,新規不登校でみると増加がよりクリアーです。2012年度から14年度にかけて,実数で5.8万人から6.5万人,出現率で0.56%から0.64%に増えていると。近年の子どもの脱学校兆候が,よりはっきりと可視化されます。

 次に,学年別の変化もみてみましょう。新規不登校児数は,学年別に計算することもできます。それを各学年の児童・生徒の全数で除せば,出現率も出せます。上表の両端の2002年度と2014年度を比べてみましょう。


 ピークは,中学校2年生となっています。継続分を含めた不登校児の全数では,中3がピークなのですが,新規に限定すると中2です。暴力行為のピークもこの学年ですが,反抗期の盛りの難しい年頃。心の中の葛藤が外向的な暴力となって表出することもあれば,学校生活への不適応となることもあると。

 以前との変化をみると,どの学年も,新規不登校児出現率がアップしています。上昇幅が相対的に大きいのは,中1と中2です。グラフにすると,分かりやすいでしょう(下図)。


 小6から中1にかけて激増していますが,これは不登校だけではありません。いじめや暴力行為など,他の問題行動もそうです。小学校から中学校に上がることに伴う,問題行動の激増現象を「中1ギャップ」といいます。

 小学校と中学校はいろいろな面で違いますが,思春期の不安定な心理状態も相まって,この落差に対する戸惑いや不適応が生じると解されます。最近では,この「中1ギャップ」が以前にもまして大きくなっているとみられます。

 昨年6月の学校教育法改正により,小中一貫教育を行う義務教育学校が創設されましたが,こうした「中1ギャップ」の解消を図ることを狙っているそうです。制度上の落差は軽減されるでしょうが,同じ集団に長期間属することになるわけで,いじめが深刻化するのではないか,という懸念を私は持っていますが・・・。

 近年,とりわけ2012年度以降,子どもの新規不登校が増加しているのですが,スマホの普及期と重なっているのは偶然でしょうか。

 情報化が進んだ現在では,学校の教室という四角い空間でなくとも,ネット経由で知識はいくらでも享受できます。今の子どもは,学校に行って勉強しないといけないという必然性を感じにくい,学校に行こうというインセンティブが薄れている。ハーシ流にいうと,子どもを学校につなぎ止めるボンドが弱くなっているように思います。

 1970年代初頭,イリイチは名著『脱学校の社会』において,次のような予言をしました。情報化が進んだ社会では,学校の領分は縮小し,それに代わって,人々の自発的な学習網(ラーニング・ウェブ)が台頭するであろう,と。それがいよいよ,現実性を増してきたな,という感じです。

 フリースクールを正規の学校として認めようという議論がされていますが,当局のお偉方も,時代の変化に気づいてきたようです。不登校を問題行動(逸脱行動)として捉える枠組みも,近い将来には修正を余儀なくされることになるでしょう。

 学校の教室で,生徒が一様に教師のほうを向いて学ぶ形式は,わが国でいうと,明治依頼の100年とちょっとの歴史しか持っていません。それを全体で普遍的なものとみなす根拠はどこにもなし。歴史を知っている人ならば,昨今の教育改革の議論を冷静に眺めることができるでしょう。

 イリイチの予言が現実味を帯びてくるのはいつか,不登校への認識の修正が起きるのはいつかを言い当てるには,もう少し時間が必要です。