2016年3月14日月曜日

世帯構造内の貧困分布

 貧困率。最近,よく耳目にする指標ですが,字のごとく,貧困状態にある人が国民全体の何%かです。ここでいう貧困とは,衣食住にも事欠くといった絶対貧困ではなく,当該社会の生活水準からした,相対的な意味合いのものです。

 具体的には,年収が中央値の半分に満たない世帯の割合をいいます。最新の厚労省『国民生活基礎調査』のデータを使って,計算してみましょう。

 2014年の調査対象となた6837世帯の年収分布は,以下のようです。下記サイトの表24より数値を採取して,作成しました。調査の前年(2013年)の世帯年収分布です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001031016


 最も多いのは,年収250万以上300万未満の世帯となっています。単身世帯や高齢世帯も含む全世帯の分布ですので,こんなものでしょう。

 この分布から相対的貧困率を出すのですが,まずは,貧困世帯を割り出すための貧困線(poverty line)を求めないといけません。貧困戦とは,中央値の半分のことです。このラインを下回る世帯が,貧困状態の世帯と判定されます。

 中央値(Median)とは,データを高い順に並べたとき,ちょうど真ん中にくる値ですよね。右端の累積相対度数から,年収400~450万のどこか,ということになります。按分比例の考えを使って,これを求めてみましょう。以下の2ステップです。

 ① (50.0-48.2)/(53.5-48.2)=0.338
 ② 400+(50×0.338)=416.9万円

 よって貧困線は,この半分の208.5万円ということになります。年収がこの繊に満たな世帯が,貧困世帯ということになります。ひとまず,年収208.4万円までの世帯としましょう。この場合,該当世帯の量は,以下のようにして推し量られます。

 A) 年収200万未満の世帯=82+366+456+491=1395世帯
 B) 年収200~208.4万の世帯=482×{(208.4-200.0)/50}=81世帯
 A+B=1476世帯

 したがって,この貧困世帯が全世帯に占める割合(相対的貧困率)は,1476/6837=21.6%となります。およそ5分の1,これが世帯単位でみた最新の貧困率です。

 これは世帯全体でみた貧困率ですが,世帯のタイプによって,値は大きく変異します。当然,単独世帯では,貧困率はうんと高くなるでしょう。原資料では,世帯構造別の年収分布も公表されています。これを使って,先ほどと同じやり方で,世帯タイプ別の貧困率を計算してみました。

 下図は,結果を図示したものです。ヨコの幅を使って,各世帯タイプの量も表現しています。


 どうでしょう。予想通り,単独世帯の貧困率は高くなっています。ジェンダーの差も出ていて,女性の単独世帯では65.9%,7割近くが貧困状態に置かれています。夫と死別した高齢女性が多いでしょうが,若年単身女性の貧困は,最近よく指摘されます。その表れかもしれません。

 ひとり親と未婚の子の世帯も,貧困率は結構高く,4分の1を超えています。ちなみに,子が学校段階のひとり親世帯に限ったら,貧困率は半分を超えます。2012年の値は54.6%で,世界一です(内閣府『子供・若者白書』2015年)。わが国は,ひとり親世帯の貧困化が最も進んだ社会ということになります。

 2人親の標準世帯を前提に,諸々の社会制度が組み立てられているためでしょう。随所で述べていますが,国全体は豊かであっても,こうした少数の層に強い圧力がかかる構造になっていることを,忘れるべきではありません。

 できれば,18歳未満の子がいる世帯に限定して,上記と同じ図を作ってみたいものです。子どもの貧困対策に際して,重点を置くべき層が見えてくるでしょう。現状の可視化。このことがまずもって求められるのは,どの社会問題についてもいえることです。