3月23日公開のプレジデント・オンラインの記事では,男性の学歴別の刑務所入所率を紹介しました。こういうデータは珍しいためか,見てくださる方が多かったようです。
http://president.jp/articles/-/17610
今回は,職業別の刑務所入所率を計算してみようと思います。社会階層と犯罪という,犯罪社会学のテーマの一環としてです。
分子は,法務省『矯正統計年報』に掲載されている,男性の職業別の新受刑者数を使います。分母は,総務省『就業構造基本調査』に載っている,男性の職業別人口を用いることにしましょう。後者の最新が2012年なので,分子の年次もこれに合わせることとします。
http://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_kousei.html
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm
2012年中の男性の新受刑者は2万2555人,同年10月時点の15歳以上の男性人口は5341万3200人です。よって,ベース10万人あたりの入所者数は42.2人となります。これが,ここでいう刑務所入所率です。
これは男性全体の値ですが,職業別ではどうか。下表は計算結果です。
ムショ入りする確率は,職業によってかなり違っています。建設・採掘従事者が108.5で,ダントツです。その次が無職となっています。おそらく,高齢者が多いと推測されます。生活苦ゆえの窃盗かもしれません。
無職者の犯罪率が高いのは,ハーシ流にいうと,ソーシャルボンドの欠如ということもあるでしょう。
管理的職業も結構高いですね。詐欺や背任といった,知能犯でしょうか。
罪種の名前が少し出ましたが,刑務所入所率の職業差は,どういう犯罪かによって異なるでしょう。上記の表で終わりではつまらないので,この点を掘り下げてみます。
まず職業カテゴリーを,ホワイトカラー,グレーカラー,ブルーカラー,無職という4区分にまとめます。上表の色で区分していますが,ホワイトは管理~事務職,グレーは販売~保安職,ブルーは生産工程~運搬・清掃・包装職,です。このような措置をとるのは,分子の受刑者を罪種別にバラすと,数が少なくなるからです。
このような大まかな職業分類に即して,分子と分母を計算し直し,再度割り算をしました。農林漁業は,分子がとても少なくなる罪種があるので,ここではオミットします。
上段は罪種ごとの入所者数で,中断はベース10万人あたりの入所者数(入所率)です。窃盗犯は,職業の差が大きくなっています。ホワイトが1.1,グレーが4.7,ブルーが7.5,無職は35.1にもなります。無職者の率が高いのは,生活苦ゆえの高齢者の万引きのためと思われます。
罪種ごとの職業差をはっきりさせるため,下段の倍率をグラフにしておきましょう。ホワイトカラーの入所率を1.0とした倍率値です。
折れ線の傾斜が急なほど,職業差が大きいことを示唆します。窃盗犯と粗暴犯で差が大きいことが知られます。
いずれも,近年の高齢者の苦境が影を落としているように思えます。生活苦ゆえの万引き,キレる高齢者(暴走老人)・・・ 解釈の素材はいろいろあるでしょう。
これは若者も高齢者もひっくるめたデータですが,年齢の影響を除いたら,どういう結果になることか。若年層に限ったら,上図の折れ線の傾斜は,もっと急になるのでは。若い年齢層の男性では,働かない者,稼げない者に対する圧力はうんと強くなるでしょうし。
学歴別に続いて,職業別の犯罪率格差も明らかになりました。利用できる官庁統計からのラフな試算ですが,「社会階層と犯罪」という古典的テーマは,もっと精緻なデータを揃える余地はありそうです。