http://www.asahi.com/articles/ASJ975JVJJ97UTFL00J.htmll
4人に1人が本気で自殺を考えたことがあり,推計53万人が過去1年間に自殺未遂を図ったことがあると。性別・年齢層別の未遂率を,2015年の『国勢調査速報』の人口に乗じて出したそうですが,妥当な推計だとしたら,日本はヤバい。明らかに病んだ社会ということになります。
最近の年間自殺者は2万5千人くらいですが,その下には膨大な潜在量(予備軍)が存在することが示唆されます。
その潜在量の指標ですが,自損行為をして,救急車で運ばれた人間の数というのはどうでしょう。これには,リストカットやOD(オーバードーズ)などによる,自殺未遂者も多く含まれると思われます。
総務省『消防白書』によると,2014年中の自損行為の救急搬送人員は4万742人となっています。同年の自殺者数2万4417人のおよそ1.7倍。結構,乖離がありますね。
1990年から2014年にかけて,年間の自殺者数と自損行為搬送者数がどう推移してきたかをグラフにすると,下図のようになります。前者の出所は厚労省『人口動態統計』,後者は『消防白書』です。
http://www.fdma.go.jp/concern/publication/
しかしその後,自殺者は横ばいなのに対し,自損行為搬送人員は増加し,両者は乖離しています。近年は,自殺者の背後に少なからぬ潜在量があることが知られます。自殺者の統計だけを見ていると,社会の危機量を見誤る恐れがある。
ちなみに,自殺者と自損行為搬送人員の属性は,大きく違っています。性別・年齢層別でみると,自殺者は「男性>女性」「高齢者>若者」ですが,自損行為搬送人員はその逆です。
全国の自損行為搬送人員の属性は分かりませんが,東京都のそれは知ることができます(『東京都消防統計書』)。2014年中の都内の搬送者数は4055人ですが,そのうち女性が2551人(62.9%)を占めます。自殺者と違い,男性より女性が多し。
http://www.tfd.metro.tokyo.jp/tfd/hp-kikakuka/toukei/index.html
年齢構成も,自殺者とは異なっています。下図は,2014年の全国の自殺者(2万4345人)と,東京都の自損行為搬送人員(4055人)の年齢分布です。前者は,年齢不詳者は除いています。
自殺者は高齢層の比重が高いですが,自損行為搬送者は若者が多く,ピークは20代で,この層だけで全体の4分の1近くを占めます。
潜在量をも考慮すると,生の危機は若者に多く分布しているとみられます。自殺対策の重点層を割り出すに当たっても,自殺者の統計だけを見ていると,事態を見誤るなと感じます。
冒頭の朝日新聞記事でいわれている,推計自殺未遂者53万人のマジョリティーは,若年の女性でしょう。この層の自殺率は低く,自殺対策の重点として注目されにくいのですが,膨大な危機の潜在量を抱えた層です。
「生きづらさ」の指標は,絶えず点検されないといけない。でないと,対策の在り方を間違えてしまう。昨日の朝日新聞記事を読んで,このことを強く認識させられます。