2016年9月12日月曜日

幼少期のコンピュータ利用と学力の関連

 「幼少期に**すべし」「頭のいい子は,幼少期をこう過ごした」・・・。いつの時代でも親御さんの関心をひくトピックで,私が関わっている『日経デュアル』でも,この手の記事がウケています。

 正直言って,私はこういう話はあまり好まないのですが,偏見ばかりというのはよくないと思い,あるデータを分析してみました。それは,タイトルにある通りです。

 日本はICT後進国で,子どものパソコン所持率は低く,学校の授業での利用頻度も低くなっています。この点の国際データは何度も提示しましたが,コンピュータの利用開始年齢も,諸外国に比して遅くなっています。

 OECDの国際学力調査「PISA 2012」のICT調査では,対象の15歳生徒に対し,「初めてコンピュータを利用したのは何歳の時か」と問うています。下図は,主要国の回答分布です。下記サイトにて,リモート集計ができます(粗い整数値でしか%が出せませんが)。
http://nces.ed.gov/surveys/international/ide/

 米英仏は,ICT関連の設問には回答していないようです。


 詳細なコメントは要りますまい。差が出ているのは,就学前の幼少期にコンピュータに触れたという生徒の率です。日本はたった13%ですが,北欧諸国で半分を声,ICT先進国のデンマークでは6割近くにもなっています。

 まあ,さもありなんという結果ですが,本題はここからです。実は日本のデータでみると,パソコンの使用開始年齢が,「PISA 2012」で測られる学力水準と相関しているのです。

 「PISA 2012」では,15歳生徒の数学リテラシー,読解力,科学的リテラシー,問題解決能力を測定していますが,その平均点は,初めてコンピュータを使った年齢によって違っています。

 下図は,その関連のグラフです。学力は社会階層に規定されますので,その影響を除くべく,両親のいずれかが大卒(ISCED 5A or 6)以上の生徒に限定しています。このグループに絞っても,コンピュータの利用開始年齢分布は,上図の全体とほぼ同じです。


 どの面の学力でみても,コンピュータの使用開始年齢が早かった群ほど,平均点が高くなっています。数学リテラシーでいうと,乳幼児期にコンピュータを使い始めた群の平均点は592点ですが,7~9歳の群では566点,10~12歳の群では556点,中学校に上がって初めて使い始めたという群では522点という有様です。

 むーん,全く攪乱のないきれいな傾向ですね。幼少期にパソコンに触れさせることは,ゲーム脳をつくる,よからぬことを覚えるというように,否定的に捉えられることが多いのですが,その後の学力とこうも相関しているとは。

 この点について何か言われていないかと検索してみたら,ズバリ「子どものパソコン所有は学力アップにつながる」という記事(2016年8月10日公表)を見つけました。
http://news.mynavi.jp/kikaku/2016/08/10/003/

 子どもにパソコンを使わせた親御さん曰く,「ITへの理解が増した」「情報収集力が高まった」「資料作成力が高まった」「勉強意欲が高まった」「様々なことに対する興味が高まった」とのこと。

 なるほど,とりわけPISA型学力の問題解決能力につながるような要素が盛りだくさんですね。コンピュータを使って,自分の創作物を発信することなどは,何のために勉強するかという,勉学意欲も高めるでしょう。いろいろな反応がもらえますしね。

 上記記事にて,脳科学者の中野氏も言われていますが,ネットから受ける刺激は,本やテレビから受けるそれよりもはるかに広範で,子どもの興味の幅を大きく広げてくれるでしょう。頭が柔らかい年少の子どもがそれに接することは,いい効果をもたらすのかもしれません。

 言わずもがな,ネットの情報は玉石混交です。幼児はそれをジャッジする能力を持ちませんので,保護者が適切なコントロールをすることが必要です。使わせるなら,フィルタリングつきのパソコンにするなど。

 社会階層の変数を統制しても,幼少期のコンピュータ使用経験と学力の間にリニアな相関がある。これは因果の可能性ありか。だとしたら,具体的にどういうことか。議論のタネにでもなればと思い,データをここに提示しておきます。