しかるに,採用する側は,そういうことを考えている人間には来てほしくないようです。だいぶ前ですが,学生が手に持っていた某県の受験パンフに,こんなことが書いてありました。
こういう人は来ないでください
①生活の安定だけを考えている人
②失敗を恐れ,新しいことに挑戦しようとしない人 ・・・
これはホンネなのかどうか。出る杭は打たれる日本ですが,保守的な役所では,それがいっそう顕著だと思うのですが・・・。
②については,日本人の冒険志向が際立って低いことは,データを交えて一度書いたことがあります。公務員の場合,冒険やリスクをとることを極力避けるメンタリティが強いのではないか。合言葉は「前例踏襲!」です。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2015/12/20-7.php
今回は,公務員に絞って,冒険志向の国際比較をしてみようと思います。日頃目にする,役所の職員さんをイメージしながら読んでいただければと存じます。
2010~14年に実施された『第6回・世界価値観調査』では,「冒険し,リスクを冒すこと,刺激のある生活は大事だ」という項目に,自分はどれほど当てはまるかを問うています。選択肢は,「とてもよく当てはまる」から「全く当てはまらない」までの6段階です。
http://www.worldvaluessurvey.org/WVSOnline.jsp
主要国について,25~54歳の公務員を取り出し,反応の分布を比べてみましょう。無回答は除く,有効回答分に限ります。サンプルサイズは日本が100人,韓国が113人,アメリカとドイツが189人,スウェーデンが199人です。*英仏は調査に非参加。
日本の公務員は,冒険志向が低くなっています。「とても当てはまる」から「多少当てはまる」の比率をとると,日本は6.0%,韓国は54.0%,アメリカは38.6%,ドイツは25.4%,スウェーデンは40.2%です。日本だけが格段に低くなっています。
この手の意識調査では,日本と韓国はだいたい似たような傾向を呈するのですが,公務員の冒険志向は違っていますね。
上記の6段階の反応分布をもとに,冒険志向の強さを測る単一尺度を作ってみましょう。「とても当てはまる」に6点,「当てはまる」に5点,「多少当てはまる」に4点,「あまり当てはまらない」に3点,「当てはまらない」に2点,「全く当てはまらない」に1点を与えた場合,平均点がいくらになるかを計算します。
算出された平均点は,日本が1.97点,韓国が3.68点,アメリカが3.14点,ドイツが2.62点,スウェーデンが3.07点です。6段階の反応分布を考慮したスコアでみても,日本の公務員の冒険志向は,主要国で最低であることが知られます。
まあ日本の場合,冒険志向が低いのは公務員だけではありません。国民全体がそうです。そこで,25~54歳の対象者全体に比した相対水準も出してみます。下表は,25~54歳の公務員の冒険志向スコアと,同年齢の対象者全体に比した相対倍率の国別一覧です。
トップは,アフリカのナイジェリア。今後の発展可能性を秘めた大国ですが,こういう社会では,人々の冒険志向も高くなるのでしょうか。萎んでいくだけの日本との対比を見るような思いです。赤字は上位5位ですが,多くがアフリカの国です。
右端の相対倍率は,公務員の冒険志向スコアを全体のそれで除した値です。全体と比した公務員の冒険志向の相対水準ですが,日本は公務員のほうが低いので,1.0を割っています。
公務員の委縮はどの社会でも同じかと思いきや,そうではないようです。表をみると,倍率が1.0を超えている国のほうが多いではありませんか。日本では,公務員の冒険志向が,絶対水準だけでなく,国内の相対水準でみても低いことが分かります。
この様をグラフで可視化してみましょう。横軸に公務員の冒険志向スコア(a),縦軸に対全体倍率(a/b)をとった座標上に,58か国を配置したものです。横軸は冒険志向の絶対水準,縦軸は国内での相対水準を意味します。
日本は右下にありますが,この事実が上述のことの可視的な表現です。「公務員の冒険志向が,絶対水準だけでなく,国内の相対水準でみても低い」と。
日本人の冒険志向は低いが,中でも公務員の委縮は際立っている。まあ,われわれが感じていることそのものですが,社会を動かす公務員には,冒険志向をもっと持ってほしいと思います。今の日本の諸問題は小手先の改革では通用せず,これまでの慣例を覆すような抜本改革が求められますが,冒険志向なしに,それはなし得ません。
公務員の採用においても,「生活の安定だけを考えている人,失敗を恐れ,新しいことに挑戦しようとしない人」は要らないとパンフに書くだけでなく,その方針を具現していただきたい。北九州市のコスプレ趣味の公務員が話題になっていますが,こういう変わり者をどんどん増やすべきではないかと思います。
http://www.asahi.com/articles/ASJ9R3FS3J9RTIPE004.html
試験において,風変わりな趣味や世界放浪の経験などを評価してもいいでしょう。現状は,その逆なんですが。
まずは,社会を動かす「官」から変わること。その萌芽がどれほど芽生えているかが,今回の冒険志向スコアで測られるのですが,日本ではわずかしかなく,それは「民」よりも小さいといった状況です。