日本全国では少子化が進んでいます。先日,2015年の『国勢調査』の人口確報集計が出ましたが,それによると,15歳未満の年少人口は1588万6810人です。5年前の1680万3444人よりも減少しています。
しかるに,そんな趨勢は「どこ吹く風」というエリアもあります。たとえば,東京の都心部です。東京都の住民基本台帳によると,中央区の年少人口は,2011年の1万2963人から2016年の1万7635人へと増えています。倍率にすると,1.36倍の増です。
http://www.toukei.metro.tokyo.jp/juukiy/jy-index.htm
同じ値を都内49市区別に出し,マップにすると,下図のようになります。東京の子ども人口の増加倍率マップ(2011~16年)です。
色がついているのは倍率1.0以上,つまり子どもが増えている地域です。特別区では,江戸川区を除いてどの区でも子どもが増えています。
しかし,西の多摩地域では減っている市が多くなっています。私が住んでいる多摩市は,かろうじて微増というところ。
濃い色は,倍率が1.2倍以上の区で,中央区(1.36倍),千代田区(1.32倍),港区(1.32倍),渋谷区(1.22倍)が該当します。子どもが増えているエリアが,こうも固まっているとは・・・。
なぜ,こういう構造になっているか。中央区在住の方がツイッターで教えていただいたところによると,①タワマンができたことで人口流入が起きていること,②区内の小学校が,英語教育等に力を入れ特色を出し,教育環境を改善していること,があるそうです。
https://twitter.com/murakami_keyaki/status/792169924462424064
なるほど,湾岸部ではタワマンが雨後の筍のように建っていると聞きます。中央区では,区内の共同住宅(71400戸)のうち,11階以上の高層にある住宅が53440戸と74.8%をも占めています(『住宅土地統計』2013年)。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001063455
都心は通勤にも便利なので,人を呼び寄せる。しかし,土地は狭いので,必然的に高層住宅に住む人が多くなる。これは道理です。
このことは,高層住宅に住む子どもが増えていることを示唆します。先ほど出した,都内49市区の5年間の子ども人口の増加倍率と,高層住宅率の相関をとると,下図のようになります。
高層住宅が多い地域ほど,子どもが増えていると。高層住宅が子どもを呼び寄せるという因果関係はないでしょうが,そういう住宅で暮らす子どもが増えていることは間違いないでしょう。
幼少期より高層マンションで暮らすことで,高いところを何とも思わない,高所平気症の子どもが多くなっていると聞きます。転落事故も少なくありません。幼児期にこういう性向が備わると厄介ですので,子をむやみにベランダに出さないなど,親御さんは気を付けないといけません。
またタワマンは共同住宅ですが,そこで暮らす人間の集団には,独特のクライメイトが生じることもあるそうです。高層ほどセレブが多くなり,下層の住民との落差が大きくなる。フロアによる階層の断絶。これは,某小学校の副校長先生より聞いた話です。
http://tmaita77.blogspot.jp/2015/08/blog-post_22.html
子どもたちは同じ小学校に通いますが,こういう生活基盤の断絶が,学校における集団形成や教育活動にどう影響しているか。当の子どもの人格形成に,どう関与しているか。タワマンの社会学なんていう領域も,開拓されていいのではないでしょうか。
東京は,地域間による階層の「棲み分け」も比較的顕著ですが,同じ区内の建物内でのそれも出現しつつある。不遜な言い方ですが,中央区のタワーマンションは,社会学者が足を踏み入れるべきフィールドとなるかもしれません。