2018年7月9日月曜日

アラフィフの睡眠時間の中央値

 睡眠は欠かせないものですが,皆さんはどれくらい寝てますか。分刻みでスケジュールをこなす堀江貴文さんは,1日6時間しっかり寝て,クリアーな頭で仕事に臨むのだそうです(『多動力』幻冬舎)。

 私は6時間でも足りないですねえ。大よそ11時前に寝て,7時前に起きる「8時間」睡眠です。寝付けなかったり,朝早く目が覚めたりした場合は,昼寝をして補充します。

 日本人の睡眠時間のデータとして,総務省『社会生活基本調査』の平均睡眠時間がよく引き合いに出されます。男女の年齢曲線を描くと,40~50代の女性が一番寝ていないことが知られます。2016年の40代女性の平均睡眠時間は432分です(1日あたり)。

 「みんな7時間も寝てるの?信じられない」という感想を持たれるでしょう。一部の際立って高い値に全体が釣り上げられてしまう。平均の罠です。願わくは,平均という代表値に丸める前の分布から観察したいものです。

 2016年の『国民生活基礎調査』に,それを叶えてくれるデータが載っています。カテゴリーがやや粗いですが,性別・年齢層別の度数分布が出てますので,それを面グラフにすると以下のようになります。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21.html


 私は8時間寝てますが,40代前半男性では,こういう人は1割もいません。働き盛りですからねえ。ちょっと申し訳ない気分になってきます…。

 色をつけたのは睡眠時間が6時間に満たない人たちですが,男女とも40代後半から50代前半に山があります。当該年齢層の女性では,こうした寝不足の人が半分以上を占めます。高校生の子の弁当づくりなど,早起きを強いられるのでしょう。老親の介護も始まり,育児+介護のダブルケアを課される年代でもありますが,その負荷は男性より女性で大きいと。

 上記のグラフから,アラフィフ女性の睡眠時間の中央値は6時間に満たないことが分かります。平均値とは違い,リアリティがあります。統計資料に載っている計算済の平均値ではなく,ちゃんと分布を観察してみるものですね。

 上記の分布をもとに,アラフィフ女性の睡眠時間の中央値を計算してみましょう。以下の表は,原資料から作成した8328人の度数分布表です。


 右端の累積相対度数から,中央値は300~359分(5時間台)の階級に含まれることが分かります。はて,中央値(=累積相対度数50ジャスト)に該当するのは何分か。按分比例を使って推し量りましょう。以下の2ステップです。

 ①:按分比=(50.0-13.3)/(52.8-13.3)= 0.929
 ②:中央値={ 300分+(0.929 × 60分)}= 355.8分

  アラフィフ女性の睡眠時間の中央値は,356分(5時間56分)と見積もられます。全員を高い順に並べたとき,ちょうど真ん中にくる人の睡眠時間です。普通のアラフィフ女性の睡眠時間は5時間56分。平均値よりはるかに頷ける数値です。

 ちなみに同年齢の男性の睡眠時間中央値は,366分(6時間6分)となっています。女性より10分長し。

 これは全国値ですが,地域差も大きくなっています。通勤時間が長い都市部では睡眠時間が短いであろうことは,想像がつくでしょう。私は同じやり方で,45~54歳男女の睡眠時間の中央値を都道府県別に計算してみました。男女の数値と性差の一覧をご覧ください。


 黄色マークは最高値,青色マークは最低値です。男性は355~386分,女性は347~370分の分布幅になっています。男性の最低は神奈川,女性は奈良です。通勤・通学時間が長い都市部は,短時間睡眠の傾向があります。

 奈良のアラフィフ女性の睡眠時間は5時間47分。夫や子どもの遠距離通勤・通学のゆえ,遅寝・早起きを強いられるのでしょうか。

 右端の性差をみると,どの県も男性より女性の睡眠時間が短くなっています。赤字はその差が15分超。ゴチ赤字は20分超ですが,中国と九州はイタイですね。男女の睡眠時間格差が大きい。「男尊女卑」という,陳腐なレッテル貼りが復活しそうです。

 さて,超多忙のホリエモンでも1日6時間は寝るそうですが(冒頭),表をみると360分を下回る数値が結構あることに気づきます。アラフィフの睡眠時間中央値が6時間に満たない県に色を付けた地図にすると,身震いする模様になっています。


 寝不足県の可視化です。男性は6県ですが,女性だと32県にも達します。スゴイですねえ。流行りの言葉を借りると,睡眠負債大国といえましょう。これが積もりに積もたら,健康が害されることは必至です。

 あいにく時系列比較はできませんが,過去に比して色が濃くなっていると思われます。『社会生活基本調査』に出ている,睡眠時間の平均値は下がっていますので。今後,人手不足の進行と,晩婚化によるダブルケアの増加により,色付きの県は増えていくかもしれません。一国の総寝不足化です。

 寝不足のクラクラした頭で仕事する…。労働生産性の向上が至上命題になっていますが,これでは逆向してしまうでしょう。労働者の休息時間を確保するための「勤務間インターバル制」の導入が推奨されていますが,南欧流の昼寝(シエスタ)の慣行も考えたらいかがでしょう。

 従業員が寝不足で事故を起こした場合,過失責任が企業に課される判決も出ています。企業も,睡眠負債の解消に本腰を入れて取り組まないといけない時期にきています。

 国際比較をできないのが残念ですが,国の半分以上が「寝不足色」で染まるような国は多くないでしょう。