2018年8月17日金曜日

熱中症の死亡者数

 先月末から酷暑が続きましたが,ちょっとだけ和らいできました。今日はカラッとして,幾分かは過ごしやすいです。

 残念なことに,今年も熱中症による死者が続出しました。大阪では,幼い小1男児が命を落としました。灼熱下の校外学習で,乏しい語彙で体の異変を必死に訴えたそうですが,適切な対応がとられませんでした。

 熱中症の死者数が連日ニュースで報じられますが,それは消防庁のものです。しかるに,死亡統計の本元は厚労省の『人口動態統計』なり。性別・年齢層別,さらには地域別といった属性別の数値も得られます。
https://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1.html

 はて,『人口動態統計』で熱中症の死亡者数を拾う場合,どの死因カテゴリーに注目すればいいのか。前から疑問に思っていたのですが,いろいろ探査した結果,「自然の過度の高温への曝露」という死因に該当するようです。細かい死因小分類のコードは「X30」です。

 ネットでは,1999~2016年までのバックナンバーを閲覧できます。両端の年の「自然の過度の高温への曝露」による死亡者数を拾うと,1999年が206人,2016年が621人です。今世紀以降の日本では,熱中症による死者が3倍以上に増えています。

 7月半ばから9月半ばの60日間で割ると,1日あたり10人が熱中症で命を落としている計算になります。

 これは国民全体の死者数ですが,本家の厚労省統計のウリは,細かい属性別の数が分かることです。原資料では,性別・年齢層別(5歳刻み)の統計表が出ています。1999年と2016年の死者数の年齢カーブは,以下のようです。


 高齢層の熱中症死亡者が増えています。ピークは両年とも80代後半ですが,1999年が34人だったのに対し,2016年は112人です。

 0~4歳の乳幼児は,1999年の方が多いのですが,確かこの年,パチンコにのめり込んだ保護者が,クルマに放置した子どもを死なせる事件が続発したんじゃなかったでしたっけ。

 それはさておき,熱中症の死者が大幅に増えているのは事実で,増分の多くは高齢者です。しかし人口の高齢化が進んでいるので,高齢の死者が増えているのは当然ではないか,という疑問もあるでしょう。

 では,ベース人口で割った死亡率を出してみましょうか。65歳以上の熱中症死亡者は,1999年が123人,2016年が492人です。これを同年の65歳以上人口(10月時点,日本人)で割ると,以下のようになります。10万人あたりの死者数です。

 1999年: 123人/2112万人=0.58人
 2016年: 492人/3445万人=1.43人

 人口変化を考慮した死亡率でも,高齢者の熱中症死亡率は上がっています。2.5倍の増です。リスクは高まっているとみてよいでしょう。

 一昔前と今では,夏の暑さが違う。このことは,気象庁の温度データでも実証されています。先ほど1999年のデータに触れましたが,私はこの年,エアコンなしのアパートに住んでいました。扇風機をガンガン回してしのぎましたが,今なら絶対耐えられないでしょう。

 「生活保護世帯にエアコン代を支給する謂れはない」などと言っている場合ではありません。この夏,電気代滞納で冷房を使えなかった,保護受給中の60代女性が熱中症で死亡する事故が起きています(札幌)。

 お隣の韓国では,「冷房は基本的な福祉」という考え方のもと,電気代を値下げする決断を大統領がしたそうですが,それに追随したいものです。
http://news.livedoor.com/article/detail/15126434/

 今年の夏の暑さはピークを越えたようですが,これからどんどんレベルアップしていくのかと思うと,気が滅入ります。憲法が規定する「健康で文化的な最低限度の生活」の中身は,時代によって変わるのです。時代変化と制度変化の間に一定のラグが出るのは不可避ですが,猶予を許さない問題もあります。酷暑という気象条件は,人間の生命にも関わるのですから。