「学テの結果を教員給与に反映させることを検討する」。今年の『全国学力・学習状況調査』の結果が最下位だったことを憤った,大阪市長の発言です。
公立学校については,都道府県別・政令市別の結果も公表されています。はて,大阪市長がブチ切れたという政令市の結果とは,どういうものなのでしょう。
最近は,地域間の競争を煽るという懸念から,地域別の公表数値はラフな整数値となっています。これでは心もとないので,各政令市の度数分布表に当たって,平均正答問題数を計算しました。
http://www.nier.go.jp/18chousakekkahoukoku/factsheet/18prefecture-City/
たとえば札幌市だと,公立小6児童(1万4380人)の国語Aの正答数分布は,以下のようになっています。全問(12問)正答のパーフェクトは1643人,12問中11問正答は2293人…です。
これをもとに,正答できた問題数の平均値(average)を計算できます。上記の例だと8.56問です。札幌市の小6児童の国語Aの平均正答問題数は,12問中8.56問であると。これをもって,結果の指標とすることにしましょう。
20政令市の5科目(国語A,国語B,算数A,算数B,理科)について,同じやり方にて,平均正答問題数を算出しました。Aは主に知識,Bは主に応用力を問う科目です。
黄色は最高値,青色は最低値です。地域差は微々たるものですが,大阪市は5科目全てで最低となっています。
これをもって,大阪市の教員は力量不足だ,自覚が足りない,と言いたいのかもしれませんが,子どもの学力と関連するのは「教師力」だけではありません。教育社会学ではだいぶ前から,貧困と学力の相関関係について繰り返し明らかにされており,近年,それにスポットが当てられるようになってきました。
上記の20政令市について,貧困の指標をいくつか揃えてみましょう。まずは,生活保護受給者率です。人口千人につき,保護を受けている人が何人か。厚労省の『被保護者調査』(2016年度)に,計算済みの数値が出ています(月平均)。ただ保護受給者の多くは高齢者や外国人と思われますので,子どもの生活保護受給者率も出してみます。2015年度の同資料に出ている,20歳未満の被保護者数を,同年の『国勢調査』の20歳未満人口で割りました。
親世代の所得や学歴との関連もあるでしょう。そこで,世帯主が30~40代の世帯の平均世帯所得と,30~40代人口の大卒・大学院卒比率も出してみました。2017年の『就業構造基本調査』のデータから計算しました。
これら4つの貧困指標は,以下のようになります。生活保護受給率の単位は,%ではなく「‰」であることに留意ください。
大阪市は,保護受給者率が20政令市で最も高く,所得は逆に一番低くなっています。大卒率も真ん中より下。よく言われることですが,困難な条件があります。
これがネックになっている可能性があることを,グラフで示してみましょう。5科目のうち,成績の地域分散が最も大きいのは理科です。最初の表に掲げた理科の平均正答問題数と,上表の生活保護受給者率(全人口)の相関をとってみます。下図は,2指標のマトリクス上に20政令市を配置した相関図です。
生活保護率が最も高く,理科の結果が最低の大阪市は,右下の極にあります。20政令市の傾向でみても,2つの指標の間にはマイナスの相関関係が見受けられます。相関係数は-0.5847で,1%水準で有意です。
これは人口全体の生活保護率と理科学力の相関ですが,上記で示した5科目の平均正答問題数と,4つの貧困指標の相関を軒並みとってみました。5×4=20の相関図を掲げるのは煩瑣ですので,算出された相関係数をお見せしましょう。
赤字は5%水準,ゴチ赤字は1%水準で有意であることを意味します。
黄色マークは,当該科目の成績と最も強く相関している貧困指標です。国語A,国語B,理科の結果と一番強く相関しているは,全人口の生活保護率です。
子どもに限った生活保護率よりも,人口全体のそれのほうが,学力と強く関連するようですね。子どもが過ごす地域全体に漂うクライメイトの効果でしょう。
算数の結果は,親世代の所得や高学歴率と強く相関しています。算数Bと高学歴率の相関係数は,+0.6を超えます。算数の場合,塾通いや参考書購入等の費用負担能力が,他の科目にも増して効くと思われます。さもありなんです。
これをもって言いたいのは,子どもの学力は社会的規定を被る,学テの結果の全てを「教師力」に還元するのは筋違いだ,ということです。8月6日の記事で述べたことを繰り返しますが,行政が為すべきは,不利な条件の地域・学校への支援を強化することです。首長がこういう立場をとっており,一定の成功を収めているのが,東京都の足立区です。