「ヤングケアラー」という言葉を聞くようになりました。家族の介護等をする子どもという意味です。
こういう新しい存在を耳にすると,その量的規模を明らかにしたくなるのが研究者っていうもの。よく使う『社会生活基本調査』では,小・中・高校生の生活行動を調べています。これを手掛かりにしてみましょう。
2016年の同調査によると,調査対象日に家族の介護・看護をしたという子の割合は,小学生(10歳以上)で0.2%,中学生で0.2%,高校生で0.5%です。同年5月時点の小学生は648万人,中学生は341万人,高校生は331万人(文科省『学校基本調査』)。
抽出調査による介護・看護実施率を,悉皆調査の母数にかければ,介護・看護をしたという小・中・高校生の数が出てきます。
2016年の『社会生活基本調査』の調査日に,家族の介護ないしは看護をした小・中・高校生の数は3万6326人と見積もられます。ほう,先日の毎日新聞に出ていた10代のヤングケアラーの推定数(3万7100人)と近いではないですか。
https://mainichi.jp/articles/20200321/k00/00m/040/131000c
大よそ,4万人弱のヤングケアラーがいるとみてよいでしょう。
2016年の『社会生活基本調査』によると,1日の介護・看護平均時間は,小学生で100分,中学生で29分,高校生で37分となっています(行動者平均時間)。小学生で長いのは,幼い弟や妹の世話をするからでしょうね。キャプテン翼の日向小次郎みたいに。
晩産化により,親や祖父母の介護を任される子どもは多くなっているでしょう。共稼ぎや一人親世帯が増えていますので,下の兄弟の世話をする子も然り。ヤングケアラーの存在が注目されてきているのも解せます。
家族のケアの経験は,子どもの人間形成の上でプラスに作用します。昔の子どもは皆やっていた,結構なことではないか。こう考える道徳起業家もいるかもしれません。しかし程度問題で,学業に支障が及ぶまでとなったら考えもの。上記の毎日新聞記事では,そういう子も少なからずいることが示されています。
度の過ぎた家族ケアで,勉強もできぬほど疲れ切っている子はいないか。地域の人間関係が濃かった時代では,隣人が異変に気付くこともできたでしょうが,「隣は何する人ぞ」の現在では,なかなかそうもいきません。日々子どもと接する教師は,異変を察知して,行政や支援団体等につなげることが期待されます。
児童虐待防止法5条では,教員は虐待を発見しやすい立場にいることにかんがみ,虐待とを受けたと思われる子どもを見つけた時は,速やかに児童相談所に通告しなければならない,と定められています。学業に支障が出るほどのケアを負わせるのは,酷使という意味合いで虐待ともとれます。児童虐待の原義は,子どもを異常な仕方で使役することです。「abuse=ab+use」ですので。
逆ピラミッドの社会になるなか,下の世代に負荷がかかるようになりますが,彼らの健やかな育ちを妨げる権利は,たとえ親といえどないのです。