2020年4月19日日曜日

職業別のフリーランス化指数

 労働者は,会社に雇われて働いている雇用者と,自分で事業を営んでいる自営業者に分かれます。後者のうち,人を雇わず自分1人で事業を営む人,つまり自分の腕1本で食べている人が,いわゆるフリーランスです。

 2015年の『国勢調査』によると,フリーランス(従業地位が「雇人のない業主」の人)は396万人となっています。およそ400万人,私が住んでいる横須賀市の人口の10倍ほどですね。対して,会社等の組織に雇われて働いている雇用者は4654万人。数としては,こちらのほうが圧倒的に多数です。フリーランスの時代とかいわれますが,日本はまだまだ雇われ労働の国です。

 雇用者とフリーランスの人に集まってもらい,後者の割合を出すと,396/(4654+396)=0.078となります。勤め人とフリーランスを一緒くたにした集団の中では,後者は13人に1とマイノリティです。

 ですがこれは就業者全体の数値で,職業によって全然違います。職業小分類と従業地位のクロス表をもとに,上記の値を細かい職業別に計算してみました。手始めに,目ぼしい6つの職業の結果をご覧いただきましょう。雇用者とフリーランスの合算に占める,後者の割合です。フリーランス化指数ということにします。

 以下は図解です。四角形全体は雇用者とフリーランスの合算で,青色は後者の比重を著します。


 人文・社会系の研究者(大学教員は含まず)は雇用者が5750人,フリーが60人で,両者の合算に占める後者の率は1%でしかありません。荒木優太さんという人が『在野研究ビギナーズ』という本を出してますが,自分の研究を売って生活しているフリー研究者はごくわずかのようです。この荒木さんとて,清掃のバイトで生計を立てているみたいなので,統計上,フリーランスの研究者には該当しないのかもしれません。

 歯医者さんは1割ちょっと。「歯科医師もフリーの時代」という記事を目にしたことがありますが,助手を雇わず個人で医院を開いている人,難易度の高い手術を単発で請け負っている人とかでしょう。

 さすがといいますか,著述家はフリーランスの世界です。私も統計上は,この中に含まれます。教育社会学の研究者を名乗ってますが,データ分析の記事を売ったり,公務員試験の対策本や過去問の解説を書いたりして食い扶持を得ています。

 デザイナーは会社員のほうが多いのですね。こちらもフリーの世界かと思いましたが,ちょっと意外です。ネット上で「いらすとや」のようなフリー素材が出回り,生き残りが難しいのでしょうか。

 家政婦(夫),お手伝いさんはフリーでやっている人のほうが多いですね。派遣会社に雇われている人が多いと思いきや,さにあらず。高齢化の進行で,体が思うように動かない高齢者が増えてきます。ゴミの分別,電球の取り換え,瓶のフタを開ける,排水溝の掃除…。こうした「ちょこっと」需要は,これから爆増するとみられます。これなら,会社にマージンを取られることなく,個人でもできそうです。高齢層から若年層にお金を還流させることにもなり,いいビジネスかと思います。

 最後に理容師。床屋さんもフリーが多数なんですね。従業員を雇わず個人でお店をやっている人,雇用契約を結ばず単発で仕事を請け負っている人でしょうか。

 以上は適当に抽出した6つの職業ですが,『国勢調査』の原統計から230職業の数値をはじき出すことができます。フリーランス化指数の分布は以下のごとし。各階級に該当する職業の数です。

  0.1未満  142
  0.1~  28
  0.2~  18
  0.3~  13
  0.4~      5
  0.5~  11
  0.6~      4 
  0.7~      4
  0.8~      3
  0.9以上    2

 フリー比重が1割にも満たない職業が142と多数派です。このうち値がゼロ,つまりフリーランスが皆無の職業は26となっています。

 一方,値が高い職業もあります。上記でみた著述家などはその典型です。皆さんが関心を持たれるのは,フリーランスの比重が高い職業の顔ぶれでしょう。値が0.3を超える42の職業をお見せしましょう。雇われ人とフリーを集めた場合,3人に1人以上が後者である職業です。以下の表は,高い順に並べたランキングです。


 会社に属さず,自分の腕で食べていける度合いが高い職業です。首位は個人経営の店主さん。昔,学校帰りに寄った駄菓子屋のおばちゃんとかでしょう。2位は海女さん,3位は美術家,4位は著述家,これはさもありなん。

 5位は農業従事者です。農家も個人経営が多いと聞きますが,定年後に,年金の足しに家庭菜園をやっている高齢者等も多いかもしれません。前に,ニューズウィーク記事で書いたことありますが,高齢期の働き方のメインはフリーランスなんです。

 大工さんも半数以上がフリーなんですね。一人親方ってやつです。歯科技工士も3人に1人がフリーランス。私は前歯4本がブリッジなんですが,歯科技工士さんに作っていただいたものです。自費負担の高価なもの(40万円ほど)については,腕のいいフリーの技工士さんに頼むのでしょうか。

 会社に雇われて働きたくない,自由な働き方をしたい。自分の腕で食べていきたい…。こういう志を持つ若い人,ないしは脱サラを考えている人の参考になったでしょうか。しかしフリーランスで食べていくのは厳しく,年収分布をみると惨憺たる有様です。男性フリーランスの半分,女性に至っては8割が年収200万未満のプアです。
https://twitter.com/tmaita77/status/1251448931751301120

 非正規雇用より劣悪な待遇になってます。こなした仕事への対価で暮らすことになりますので,生活も不安定になりがち。就業不能になっても補償はなし(任意保険はありますが)フリーランスとは「不利ーランス」という,ブラックジョークすらあります。

 しかし今後,フリーランスの働き方は増えてくるはず。フリーランスの生活保障を考えないといけません。今のところ,コロナで窮地にたったフリーの生活を長期的に支えるのは生活保護しかない,という主張もあります。
https://news.yahoo.co.jp/byline/konnoharuki/20200402-00171061/

 どうしようもなくなったら,この制度にすがってもいいのですが,それを拒み,餓死という最悪の末路をたどる人もいます。役所が生活保護受給を認めるのを渋るためですが,その戦略として機能しているのが,いわゆる扶養照会です。

 「親族に連絡しますが,いいですか?」。専門家や支援者に同行してもらって,強気の姿勢で申請に訪れた困窮者も,この質問を発せられると,空気が抜けた風船のように萎んでしまいます。今の状態を親兄弟に知られるくらいなら死んだほうがマシ…。「恥」の意識につけ込んだ,日本独特の水際作戦です。

 扶養照会されて,「はい,面倒見ます」なんて答える人なんているのでしょうか。この悪しき制度は廃止すべし。私は親戚付き合いゼロなんで,「どうぞご自由に」と返しますけど。