前回の続きです。今回は,子どもの自尊心の程度が,学力の水準とどう関連しているのかを明らかにしようと思います。
わが国のように,「学校化」が著しく進展し,上級学校への進学規範が強い社会では,子どもの自尊心の程度は,学校での教科の成績とかなり関連していることと思います。それは当然といえば当然ですが,両者があまりに強く結びついていることは,子どもの自尊心の拠り所が,狭い部分に局地化されていることを示唆します。実情はどうなのでしょう。
前回,2010年度の『全国学力・学習状況調査』の結果を使って,子どもの自尊心の多寡を県別に明らかにしました。「自分にはよいところがあると思うか」という問いに対し,「あてはまる」ないしは「どちらかといえば,あてはまる」と回答した者の比率です。この指標が,教科の平均正答率とどう相関しているかをみてみます。
上図は,公立中学校3年生について,国語Aの平均正答率と自尊感情の相関図を描いたものです。正答率が高い県ほど,自尊感情も高い傾向にあります。相関係数は0.613であり,1%水準で有意と判定されます。
上記の文科省調査は,中学校3年生と同時に,小学校6年生も対象にしています。後者にあっては,自尊心と学力の相関はどうなのでしょうか。また,国語Aとは別の教科の正答率をあてると,どういう結果になるでしょうか。下に,相関係数の一覧を掲げます。公立学校の都道府県別データの解析から得られたものです。各教科のAは知識を問うもの,Bは活用を問うものであることを申し添えます。
どの教科の正答率も,子どもの自尊心の多寡と正の相関です。また,小6から中3にかけて,相関係数の値が軒並みアップしています。自尊心の高低が教科の学力によって規定される度合いは,上級学年ほど強いことがうかがわれます。
地域単位の統計ではありますが,上記の事実をどう解釈したものでしょうか。仮に,両変数が全くの無相関という場合,それは危惧すべき事態です。子どもたちが,学校(それも義務教育学校)での勉学をどうでもいいと考えていることを意味するからです。かといって,相関係数が0.8から0.9にも及ぶのであれば,子どもの自尊心の基盤(basis)が,あまりに狭いものになっているのではないか,という懸念が持たれます。上記のデータは,こうした対極的な事態の中間に位置するものであり,ちょうどよいといえるのかも知れません。
ですが,小6から中3にかけて,学力と自尊感情の関連が強まることは気がかりでもあります。中学校3年生といえば,自分の個性をある程度自覚し,自分はどういうことに向いているのか,何が得意なのか,ということに思いを馳せる時期であると思います。自尊心の基盤は,年齢を上がるにつれて多様化していくべきものであり,それが一元化されるようなことはあってはならないと考えます。
もっとも,今回は,子どもの自尊心と学力の相関関係をみたまでです。前者が,後者以外のさまざまな要因とも関連しているのであれば,どうということはありません。しかし,もっぱら学力とだけ相関しているというならば,それは問題というべきでしょう。子どもの自尊心の規定要因というのも,教育社会学の重要な主題であると存じます。長期間の学校教育を経て,劣等感を植えつけられた人間が大量生産されることは,何とももったいないことであるからです。