7月の末に公表された,2010年度の文科省『学校教員統計調査』の中間報告では,前年度(2009年度)間に離職した教員の数が明らかにされています。理由別の数字が載っているのですが,そのカテゴリーの区分が以前よりも詳しくなっていて,精神疾患を理由とした離職者の数も知ることができます。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001016172
上記サイトの教員異動調査の中に,「離職の理由別・離職教員数」という表がアップされています。この表から,各学校種について,精神疾患を理由とした離職者数をハンティングしました。下表のbです。これを,2009年5月1日時点の本務教員数(a)で除して,精神疾患を理由とした,教員の離職率を計算しました。aは,2009年度の文科省『学校基本調査』から得ています。
精神疾患の理由とした離職率は,幼稚園でダントツに高くなっています。1万人あたり20.7人,百分率にすると0.2%です。以後,階梯を上がるにつれて,離職率は減じていきます。
以前,理由不詳の離職者数を分子に充てた離職率を出したのですが,そこでは,上級の学校ほど,率が高い傾向がみられました。ですが,精神疾患という理由の離職に限定すると,離職率は,下の学校ほど高いようです。
幼い子どもを預かる幼稚園では,躾(しつけ)をしてほしい,もっと長時間預かってほしいなど,理不尽な要求を突きつける,モンスター・ペアレントの問題が,小・中学校にもまして大きいのかも知れません。核家族化,共働き化が進むなか,幼児をほったらかしにする親も増えていることでしょう。近年,教職の危機についてよく取り沙汰されますが,就学前の教育機関である幼稚園の困難に,もっと目を向ける必要もあるかと思います。
幼稚園から高等学校までの各学校種について,精神疾患による離職率を属性別に出すと,以下のようです。
性別では,男性よりも女性の率が高くなっています。精神疾患を患う確率は,どの学校段階においても,女性教員のほうが高いようです。学校の設置主体別にみると,公立校よりも私立校で離職率が高くなっています。小学校では,私立は公立の倍以上です。ブルジョア階層の子弟を受け入れる私立小学校では,保護者の要求もひときわ厳しい,ということでしょうか。
低年齢の幼児や児童を預かる学校の教員ほど,精神疾患を患う確率が高い,ということが明らかになりました。少子化で,子どもの数はどんどん減ってきています。教員1人が受け持つ子どもの数(PT比)も,昔に比べれば格段に少なくなっています。しかし,少なくなった顧客を,腫れものに触れるかのごとく,丁重に最大限の神経を使って扱わなければならない,教員の気苦労をお察しします。