広井良典教授の『創造的福祉社会』(ちくま新書,2011年)を読んでいます。副題のごとく,成長が終わった後の社会のすがたについて構想をめぐらした書物です。内容は多岐にわたるのですが,帯には,「グローバル化の先のローカル化へ!」と記されています。
「グローバル化」とは,簡単にいえば,人々の生活圏が拡大することです。かつての人間は,生まれてから死ぬまで,一つの(狭い)地域社会の中で暮らしていました。日常生活における生産や消費も,そこにて完結していたわけです。
しかし,現在はそうではなくなっています。たいていの人は,生涯の間に複数回,地域移動(引っ越し)をしますし,日常生活でも,自宅から職場などへと,複数の地域を渡り歩いています。生活物資にしたって,インターネットなどのツールを使って,遠く離れた場所から取り寄せることも少なくありません。今時,自宅から歩いて行ける範囲において生活が完結するような人は,滅多にいないでしょう。
一方の「ローカル化」とは,各人が住んでいる地域の重要性が増していくことです。自宅から歩いて行ける範囲よりも少し広いくらいの地域を想定すればよいでしょうか。生産や消費などの面からなる生活が,小さな地域の中で完結する度合いが高まることになります。自宅から近い場所で働く,買い物は近くの商店街で済ますなど…。
広井教授によると,今後は,グローバル化よりもローカル化の傾向が強まっていくであろう,とのことです。はて,歴史の時計の針が逆戻りするような事態が,本当に起きるのでしょうか。広井教授の予測は,ある統計指標の動向を踏まえています。その指標とは,地域密着人口の比率です。
地域密着人口とは,年少人口(15歳未満)と老年人口(65歳以上)が,全人口に占める比率のことです。年少人口と老年人口は,生産人口に比して,自分が暮らす地域への密着の度合いが高いと解釈されます。こうした地域密着人口の比重が高まることは,ローカル化が進展することの基盤条件であるといえましょう(上記文献,87頁)。
上図は,わが国の人口の長期的な変化を図示したものです。現在はちょうど人口がピークの時であり,これから先,人口減少の局面に入っていくことになります。しかし,その組成をみると,緑色の老年人口の比重の増加が明らかです。2050年では,全人口のおよそ4割が,65歳以上の老年人口で占められることになります。
老年人口は地域密着人口に含まれますから,地域密着人口の比重も高まっていくことになります。地域密着人口(年少+老年)の比率をピンポイントで出してみると,1920年が41.7%,1950年が40.3%,1980年が32.6%,2010年が36.1%,2050年が48.2%,です。昔は子どもが多かったので,地域密着人口率は高かったようです。これから先は,高齢者が増えることで,この指標の数字が高まっていくことが見込まれます。
地域密着人口の比率をグラフ化してみましょう。この指標は,1950年までは40%を超えていましたが,その後急減の時期に入り,1970年には31%まで低下します。この時期は,高度経済成長期と一致します。「成長」の時期です。
しかし,1990年代以降,地域密着人口率は増加の局面に入り,2020年には再び4割を超えることが見込まれます。2070年には50%を超え,人口の半分が地域密着人口という社会になることが予想されます。ローカル化が進行するための人口学的条件は,確実に熟していくというべきでしょう。
私が感動した,映画「コクリコ坂から」は1963年の物語ですが,この映画で描かれていたような,活気ある地域社会が,全国の至る所でカムバックするのでしょうか。そうだとしたら,嬉しい気がします。これから先のローカル化は,もっぱら高齢者によって担われることに注意しなければなりませんが。
いずれによせ,「成長の後」の社会は,ローカル化が進んだ社会になることは,かなりの確率で予言できると思います。