情報化社会のなか,情報教育の重要性がいわれますが,国際調査の結果から,わが国のお寒い状況が次々に明らかになってきます。前回は,高校生の学校でのICT利用度が,日本の場合,国際的にみて最も低いことを知りました。
このことは,生徒が自由に使えるコンピュータの設置状況が芳しくない事情によるのかもしれません。今回は,そうした条件面の国際比較を手掛けてみようと思います。
PISA2009の学校質問紙調査では,対象の高校に対し,「生徒が,学習のために利用できるコンピュータが全部で何台あるか」と尋ねています。日本の調査対象校(186校)の総計は17,170台です。これらの高校の1年生の生徒数は45,355人。したがって,高校1年生1人あたり0.38台ということになります。
学校での生徒のICT利用度が最も高いノルウェーと比較してみましょう。下表をご覧ください。
北欧のノルウェーでは,生徒数よりもコンピュータの台数のほうが多くなっています。均すと,生徒1人につき1台あるわけですから,この国では,コンピュータの前に順番待ちの列ができるようなことはないことになります。
一方,わが国はといえば,3人に1台。なるほど。学校でのICTへの接触頻度が少ないのも分かろうというものです。
しかるに,そのような推論を許さないデータがあります。上記PISA調査では,対象の学校に対し,「教育用コンピュータの不足が,指導に支障をきたすほど不足している状態にあるか」と問うています。日本とノルウェーの回答分布は以下のごとし。
コンピュータの客観的な設置状況は日本のほうが明らかに芳しくないのですが,各学校の主観的な不足感は,ノルウェーのほうが高くなっています。この国では,生徒1人につき1台のコンピュータがあるのですが,8割近くの学校が不足感を露わにしています。対して日本は,3人に1台という状況にもかかわらず,6割以上の学校が「不足せず」と答えているのです。
コンピュータ教室において,順番待ちの列ができたり,数人で1台を使ったりすることがしばしばであれば,各学校は不足感を呈することでしょう。しかし,現実は上のごとし。こうみると,わが国の学校で生徒のICT利用度が低いことは,条件整備の劣悪さだけに帰すことはできないように思えます。
比較の対象を広げましょう。私は,71の国について,同じデータを作成しました。下図は,横軸に生徒1人あたり学習用コンピュータ台数,縦軸に各学校の不足感をとった座標上に,71の国を位置づけたものです。各学校の不足感とは,「ある程度は不足している」ないしは「大変不足している」と答えた学校の比率です。日本の場合,9.1+4.3=13.4%なり。点線は,71か国全体の値です。
日本は,コンピュータの台数が少ないのですが,コンピュータが不足していると感じている学校は多くありません。お隣の韓国も,このような性格を持っています。一方,右上にあるロシアは,生徒1人あたり1.5台のコンピュータがあるにもかかわらず,6割超の学校が不足感を訴えています。
わが国の高校で生徒がコンピュータに触れることが少ないのは,設置されているコンピュータが少ないから,というわけではなさそうです。それよりも,授業においてコンピュータ活用が重視されていない,生徒のコンピュータ活用モチベーションが低い,という要因による部分が大きいのではないかと思われます。
日本と韓国という,受験競争が激しい社会が左下に位置しているのも,何やら象徴的です。
しからば,コンピュータについて,わが国の高校生はどういうふうに考えているのでしょう。PISA2009に依拠したICT研究の締めとして,次回はこの点をみてみようと思います。