2015年1月1日木曜日

どの学習指導要領で育ったか

 年が明けました。今年もどうぞ,よろしくお願いいたします。

 2015年は戦後70年に当たります。この節目の年のスタートということで,特定の観点から戦後史を振り返ってみようと思います。具体的には,学習指導要領の変遷史の上に,各世代の軌跡を書き込んでみます。タイトルのごとく,それぞれの世代は「どの学習指導要領で育ったか」を可視化する試みです。

 学習指導要領とは教育課程の国家基準ですが,その内容は時代ともに改訂されてきています。大よそ10年間隔です。その変遷史をみると,能力主義の考え方のもと,授業時数や教育内容がうんと増やされた時期もあれば,その逆の時期もあります。後者の学習指導要領で育った世代は,「ゆとり世代」などといわれたりします。

 どの学習指導要領で育ったかは,各世代の人間形成に少なからず影響していることでしょう。学習指導要領をして「国民形成の設計書」となぞらえた論者もいますが,その規定力(拘束性)を侮るわけにはいきません。
http://www.tups.jp/book/book.php?id=224

 教員採用試験を受験予定の方は勉強済みかと思いますが,学習指導要領は以下のように変遷していきています。

 ①1947年版学習指導要領(小・中は47年,高は48年より実施)
 ②1951年版学習指導要領(小・中・高とも51年より実施)
 ③1958年版学習指導要領(小は61年,中は62年,高は63年より実施)
 ④1968年版学習指導要領(小は71年,中は72年,高は73年より実施)
 ⑤1977年版学習指導要領(小は80年,中は81年,高は82年より実施)
 ⑥1989年版学習指導要領(小は92年,中は93年,高は94年より実施)
 ⑦1998年版学習指導要領(小・中は02年,高は03年より実施)
 ⑧2008年版学習指導要領(小は11年,中は12年,高は13年より学年進行で実施)

 私の世代(1976年生まれ)は,⑤の77年版学習指導要領のもとで育ったことになります。今年,杏林大学で教えている1年生の学生さん(95年生まれ)は,⑦の98年版学習指導要領の世代です。

 ①~⑧の学習指導要領の実施期間で塗り分けた図のうえに,それぞれの世代の軌跡を書き込んでみました。私の世代の軌跡は,(83年,小1)と(94年,高3)を結んだ直線で表されます。

 ほか,40年生まれ世代(私の母の世代),48年生まれ世代(団塊の世代),68年生まれ世代(非行世代),84年生まれ世代(メグカナ世代),95年生まれ世代(今の大学1年生)の軌跡線も引いてみました。

 では,ブツをみていただきましょう。


 今の大学1年生は,学校生活のほとんどを⑦のもとで過ごしてきた世代です。ご存じのとおり,ゆとり教育を掲げ,授業時数を3割削減した指導要領ですが,その洗礼をもろに受けた純粋「ゆとり」世代です。

 しかるに,かくいう私も「ゆとり」世代です。⑤の指導要領は,それ以前の能力主義を反省し,「ゆとり」「精選」の方針のもと,授業時数を削減したものでした。社会奉仕や勤労体験学習が重視されたのも特徴です。そういえば,休み中の地域清掃活動などがあったなあ。これが効をなしたのかは知りませんが,私の世代は,総決算でみて最も非行少年が少なかった世代です。
http://tmaita77.blogspot.jp/2011/03/blog-post_11.html

 その一つ上の68年生まれ世代は,逆に非行が最も多かった世代(delinquent generation)なり。80年代初頭の非行の「第3ピーク」は,この世代が主に担ってくれたものでした。児童期を④の能力主義的指導要領のもとで過ごし,思春期になって急に「ゆとり」「精選」に転換されたのですが,それに対する戸惑いがあったのか,タガが外れてしまったのか・・・。こうした急転が,多感な思春期の入口と重なったことも不運であったといえるかもしれません。

 さらに一つ上の48年生まれ世代は,人数的に最も多い団塊の世代。児童期は,法的拘束がなく,授業時間も一律に定められていなかった「ゆるい」指導要領で育ちましたが,思春期以降,締め付けが厳しくなります。能力主義方針のもと,高校職業学科の学科が細分され,差別的な選り分けがなされたのもこの頃です。68年生まれ世代と同じく,多感な時期に指導要領の急転換を経験した世代ですが,学生運動の闘志のルーツはこういうところにあったのではないかという気もします。

 最後に84年生まれ世代ですが,今世紀初頭の「キレる子ども」の主役を演じてくれた世代です。一貫して⑥の指導要領のもとで育ちつつも,10代の時期にネットの普及という大変化を経験した世代。指導要領の上では「社会の情報化への対応」がいわれましたが,この頃の脆弱な情報教育では,青少年をして,情報化社会へと適応させるのは難しかったようです。高校に情報科という教科ができたのは,その後の⑦の指導要領においてでした。

 上図には,私が関心をもつ6つの世代の軌跡線を引いていますが,ご自身の軌跡を書きこんでみるのもいいでしょう。ご家族全員の線を引いてみるのもいい。家族の相互理解を深める,お正月の娯楽としていかがでしょうか。

 なお今回の図は,師匠の松本良夫先生が考案された「ジェネレーション・グラム」という図法に基づいています。昨年の8月7日の記事では,社会的な出来事を書きこんだ図を展示しています。こちらも,異世代理解を深めるためのルールとしてお使いいただけるのではないかと思います。

 それでは皆様,よいお正月をお過ごしください。