このブログで何度かお見せしているジェネレーショングラムは,それぞれの世代が生きた軌跡を,時代状況との関連で俯瞰できる図法です。
別に込み入った図法ではなく,横軸に年齢,縦軸に時代(年)をとった平面の上に,各世代の斜めの軌跡線を描くだけのことです。私の恩師の松本良夫先生が,電車の時刻表をヒントに考案された表現法です。ダイヤグラムをもじって,ジェネレーショングラムと命名されています。
私はこの方法によって,団塊世代が生きてきた軌跡を可視化してみました。戦後初期の頃に産声を上げた,量的に多い世代です。量の多さもさることながら,その生きた時代の特殊性もあって,注目されることの多い世代です。この世代に焦点を当てた戦後史の文献も存在します。*三浦展「団塊世代の戦後史」文春文庫,2007年。
詳しくはこういう本を読んでいただければいいのですが,この世代の軌跡を視覚的に一望できる図があればいいなと,前から思っていました。そこで今回,この世代のジェネレーショングラムを作ってみた次第です。
さっそく,ブツをご覧いただきましょう。団塊世代といっても諸説がありますが,私は1948年生まれ世代の軌跡を描いてみました。この春定年退職された,私が知る編集者さんの世代です。お世話になった,この方への贐(はなむけ)の意味合いも込めています。太線がそれです。
ついでに,その子どもの世代(団塊ジュニア)の軌跡も書き入れてみました。下の細線がそれで,1972年生まれ世代の軌跡線です。
この図をみていただければよいのですが,少しだけ解釈を添えましょう。この世代の乳幼児期は,戦後混乱期でした。食べ物もなく,栄養状態・衛生状態も悪かった頃です。乳幼児死亡率もさぞ高かったことでしょう。こういう大変な時代に,人格の礎が築かれる乳幼児期を過ごしたことになります。
学校に上がるのは50年代の半ばですが,戦後の新教育も板についてきた頃。それまでの(米国流の)自由主義路線を転換し,学習指導要領をカリキュラムの国家基準化するなど,規制の強化が図られてきます。アプレの腐敗を嘆く世相に押されたのか,58年の学習指導要領改訂によって道徳の時間も新設されます。
児童期の終わり(思春期)あたりは,高度経済成長期の只中ということもあり,能力主義や高校多様化(差別的複線コース化)という事態に直面します。といっても,この世代が15歳であった1963年の高校進学率は67%(地方では半分以下)であり,義務教育卒業者の進路は進学と就職にパッカリ分かれていました。中卒者が「金の卵」といわれ,田舎から都会へ集団就職列車が頻繁に走っていたのもこの頃です。
この世代の場合,青年期の入口の10代後半は生徒(学生)と勤労者に2分されていたのですが,そうした地位の分化(segregate)が諍いを生じさせたのか,暴力非行や性非行も多発しました。戦後の非行の第2ピークは64年ですが,その主な担い手の世代であったと考えられます。
続く青年期は,ご存じのとおり,学生運動で大暴れします。この世代が成人するのは,運動が最も激化した68年のことです。
多感な思春期・青年期が,高度経済成長期という激変期と重なったことが,団塊世代の何よりの特徴です。若気と「イケイケ」ムードの時代風潮が合体したことの影響は,大きいと見るべきでしょうね。
70年代前半には大学を卒業し,大半が社会人になります。結婚して,子どもも生まれます。その子どもが,いわゆる団塊ジュニアです。ここから先は,子どもの成長と併行した人生になります。
働き盛りの壮年期は,70年代後半から80年代です。86年に男女雇用機会均等法が施行され,幼少期より身に付けたジェンダー意識の変革を求められるようになります。また,児童期に達したわが子がファミコンにのめり込む,学校でいじめが蔓延する,そして激しい受験競争など,子育てにも苦慮したのではないでしょうか。子どもが大学受験を迎える頃はバブル期であり,経済的な心配は今と比したら小さかったかもしれませんが。
しかしバブル景気も91年に終り,そこからは不況の暗黒期。年齢的には中年期ですが,人件費がかさむということで,リストラという憂き目にあったお父さんも多かったことでしょう。97年から98年自殺者が激増し,3万人の大台にのるのですが,その増分の多くは,この世代の男性であったとみられます。その上,定年間際にはリーマンショックが起きるわ,年金が消えたとか言われるわ,ツイてなかったのですね。
現在は,引退期に入っています。上記のような時代の虐げへの反動か,あるいは激変の時代を生きてきた活力があり余っているのか,各地でキレる,暴力沙汰を起こすなど,「暴走老人」と形容される振る舞いをしている者もいるようです。
ごく大雑把にみると,こんな感じでしょうか。この世代はエネルギーを持っているようなので,盆栽やゲートボールなどという,従来型の年寄り趣味ではなく,ゲームとかLINEとか,今風の趣味に仕向けてみるのもいいかもしれません。聞けば,LINEスタンプの制作が老人にウケているそうです。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150404-00000539-san-life
今回は,団塊世代のジェネレーショングラムの紹介でした。上述のように,お世話になった編集者さんへの贐でもあります。実名掲載の許可をいただいていませんので,伏字としますが,**さん,お世話になりました。これからも,私の活動を見守っていてください。いつまでも,お元気で。私からも随時,近況報告をさせていただきます。
2015年葉桜の候
舞田 敏彦