2016年5月24日火曜日

年齢層別のジニ係数の国際比較(2012年)

 昨年の10月9日の記事では,ジニ係数の国際比較をしましたが,今回は,年齢層別のそれをしてみようと思います。

 資料は上記と同じで,ISSPの『家族と性役割の変化に関する意識調査』(2012年)です。この調査では,各国の18歳以上の国民に対し,属する世帯の収入を尋ねています。月収で回答している国が大半です(日本やアメリカは年収)。

 私は,30歳未満,30~50代,50歳以上の3群に対象者を分かち,この3群のジニ係数を計算しました。遠い異国の南アフリカの若年層を例に,計算の方法を説明します。


 上表は,南アフリカの30歳未満の若者に対し,属する世帯の月収を尋ねた結果です。通貨の単位はランド(R)です。階級の区分は,原資料によります。

 人数の横の富量とは,それぞれの階級が手にした富の量のことで,階級値に人数を乗じた値です。たとえば,月収1001~1500Rの階級には,1250R×64人=80000Rの富が得られたと考えます。

 15階級の富をトータルすると,276万3750ランドとなります。これが社会全体の富になるわけですが,この巨額の富が,各階級にどう配分されているか。

 中央の相対度数の欄をみると,人数と富量の分布はかなりズレています。全体の46.1%が月収1500R以下の世帯で暮らしているのですが,この層には富全体の9.5%しか届いていません。逆に,人数では4.1%でしかない月収20001R以上の富裕層が,富全体の28.0%をもせしめています。

 予想はしていましたが,この国では,富の配分の格差が大きいようですねえ。それは,右端の累積相対度数をグラフにすることで可視化されます。下図は,横軸に人数,縦軸に富量の累積相対度数をとった座標上に15の階級をプロットし,線でつないだ曲線です。これを,ローレンツ曲線といいます。


 この曲線の底が深いほど,人数と富量のズレが大きいこと,すなわち富の配分の格差(偏り)が大きいことを示唆します。

 われわれが求めようとしているジニ係数は,図の色付きの面積を2倍した値です。この部分の面積は0.302,よって,南アフリカの若者の世帯月収ジニ係数は,これを2倍して0.604と算出されます。*計算の仕方の詳細は,下記記事をご覧ください。

 一般にジニ係数は0.4を超えると,特段の事情がない限り是正を要するという危険信号と読めるそうです。0.6というのは,いつ暴動が起きてもおかしくないくらいヤバい,ということ。現に南アフリカでは,若者の暴動や凶悪犯罪が頻発しています。それがこういう経済格差に由来する部分が大きいことは,言うまでもありません。

 ジニ係数の計算方法について,お分かりいただけたかと思います。では,同じやり方で出した,各国の年齢層別のジニ係数一覧表をご覧いただきましょう。黄色マークは最高値,青色マークは最低値です。0.5以上の(危険)数値は赤色にしました。


 若年層と中年層のトップは,先ほど例として取り上げた南アフリカです。世界一の格差社会なり。

 しかし高年層のトップは,オーストラリアとなっています。0.695とは,半端ない。他の年齢層の係数も高くなっています。資源に恵まれた大国で,格差社会というイメージはあまりないのですが,その資源から恩恵を受けているのは,限られた層だという指摘もあります。
http://guccipost.co.jp/blog/maehashi/?p=42888

 メキシコやフィリピンのジニ係数も,高いですねえ。これらの国では,富裕層と貧困層の格差がべらぼうに大きいことは,各種の見聞記でよくいわれています。嵐よういちさんの「海外ブラックロード」シリーズなどを読むと,よくわかります。

 お隣の韓国は,高齢層のジニ係数のみが高くなっています。社会の格差・貧困が,高齢層に集中しているのが,この社会の特徴。儒教社会で,「親の面倒は子が見るべし」とされてきた社会ですので,年金等の公的社会保障制度が未整備なのでしょう。

 それでいて,若者の儒教的価値観は急速に崩れている。この国で,高齢者の自殺率が激増しているのも,分かろうというものです。まさに,「ヘル朝鮮」です。
https://twitter.com/tmaita77/status/495519038395527169/photo/1

 日本はというと,若年層は0.360,中年層は0.285,高年層は0.391となっています。他国に比して高くはないですが,若者と高齢者で高い「V字」型。高齢層は,危険水準の0.4に迫る勢いです。2050年ことには,わが国の人口ピラミッドは完全な逆ピラミッドになりますが,こうなった時,高齢層のジニ係数はどうなっているか。現在の韓国社会に,近未来の日本の状況を見るようで悪寒がします。

 国別のジニ係数と犯罪率や自殺率の相関をとっても,面白そうですね(年齢ごとに)。逸脱行動の原因は,個々人の個別的な事情だけではありません。その底には,当人が暮らす社会の状況があることは,間違いないところです。経済格差などは,その最たるものです。それを可視化することは,意義あることだと思っています。