ネット書店の台頭により,街の本屋さんが苦境に立たされています。
総務省『経済センサス』の産業小分類統計によると,書籍・文房具小売り事業所(本屋・文具屋)は,1991年では76915店でしたが,2014年では37817店まで半減しています。人口10万人あたりの店数も,62.0から29.8へと半減以下です。
http://www.stat.go.jp/data/e-census/index.htm
人口10万人あたりの事業所数を都道府県別に出し,マップにすると下図のようになります。
むうう。この四半世紀にかけて,街の本屋さんが淘汰されているのがよく分かります。2014年の地図はほぼ真っ白で,どの県が相対的に高いのか不明ですが,都市よりも地方で値は高くなっています。
https://twitter.com/tmaita77/status/727656513897009152
都市部では,小さな個人経営の店は淘汰され,大規模店が幅を利かせているためでしょう。しかし,東京は例外です。独自の「色」を出してがんばっている零細店も多いのかもしれません。
その東京ですが,都内の市区別に,人口10万人あたりの書店・文具店数を計算することもできます。ベース人口には,2015年の『国勢調査』の速報値を使います。下図は,それを地図にしたものです。
都心の千代田区が,10万人あたり543.3店でダントツです。これは例外値ですが,都心で値が高くなっています。それと中央線沿線。
この図をみて,前に作った,子どもの学力地図の模様と似ているな,という印象を持ちます。下図は,両者を関連付けた散布図です。書店数が飛ぶ抜けて多い千代田区は「外れ値」として,この図には入れていません。また,学力のデータがない町村部も対象から外しています。
縦軸の学力ですが,平均正答率の地域分散が大きい,算数に注目しています。
ほう。両者の間には,有意なプラスの相関がみられます。書店が多い地域ほど,子どもの算数学力が高いと。
まあ,他の要因を介した疑似相関の可能性が大ですが,ぶらりと立ち寄れる本屋さんが多い地域ほど,子どもが本好きになり,学力アップという因果経路も考えられなくはないですよね。
本はネット書店でも,街の本屋さんでも買えます。しかし後者の魅力は,思わぬ本にバッタリ出会えることです。ネット書店は,目的の本を買うだけですが,リアルの書店では,「おお,こんなのがあるんだ」と,当初の目当て以外の本を手に取ることもしばしば。発想の幅を広げることにもなります。
それと,街の本屋さんは,文化の象徴という見方もあります。フランスはこういう考えをとっていて,街の本屋さんを保護すべく,送料無料のネット販売を禁じる法律を施行しています。通称,「反アマゾン法」です。
『新潮45』の2015年2月号に,「人が人たる所以は,本を読むこと。活字を読まないのはケダモノを同じ」という趣旨の文言が載っていますが,その通りだと思います。
https://twitter.com/tmaita77/status/558492676195352576
以前と比して,読書の量はさほど変わっていないと感じます。ただ,ネット経由で本を取り寄せる人の増加,コストがかからない図書館利用の増加,というような形式の変化は明らかです。悪いこととは一概に言えませんが,街の本屋さんの魅力を見直すことも必要でしょう。
もちろん,書店の側にも経営努力は求められます。今朝の「サンケイBiz」サイトに,目利きの店主がチョイスした本を売る,というスタイルで生き残りを図っている書店のニュースが出ていました。こういう独自色を出せば,ネット書店への対抗も不可能ではありません。
http://www.sankeibiz.jp/econome/news/160503/ece1605030708002-n1.htm
ぶらりと入って,「ハッ」という気付きを与えてくれる本屋さん。その魅力(強み)は,何にも代え難いことは確かだと思います。