2020年5月11日月曜日

高学歴化レベルの国際比較

 日本は教育大国といわれます。高校進学率が95%超,ほぼ全入になったのはだいぶ前ですが,今や大学進学率も50%超,同世代の半分です。

 こうした教育の普及度をもって,教育大国といわれるのですが,他国はどうなのでしょう。進学率みたいな単純なデータは,白書に載っているだろと思われるかもしれないですが,進学率の国際比較って難しいのです。たとえば大学進学率の場合,何をもって大学とみなすかが,国によってまちまちです。日本でいう専門学校とかも,分子に入れてしまっている国もあります。

 それに後述するように,大学に行くチャンスというのは,高校卒業時点(日本だと18歳時)に限定されるものではありません。この時点の進学率をもって,教育の普及度とみなすのは,どうかなと思います。

 教育の普及度の指標としては,最高段階の大学教育が国民にどれほど行き渡っているかがよいでしょう。OECDの「Education at a Glance 2019」に,2018年の25~64歳人口の最終学歴分布が出ています(表A1-1)。以下の3つのいずれかを持っている人が,大卒以上の人ということになります。短大や専門学校といった,短期高等教育機関は含みません。

 Bachelor's or equivalent
 Master's or equivalent
 Doctoral or equivalent

 日本でいうと大学,大学院修士,同博士ですね。日本の25~64歳のうち,これらの学歴を有している人の率は30.7%となっています。国民の大卒学歴保有率です。若い世代に限定すればもっと高いでしょうが,64歳までを射程に入れるとこんなものでしょう。

 OECD加盟国の数値を高い順に並べると,以下のようになります。



 日本の30.7%は,37か国の中では真ん中辺りです。値がもっと高い国は多く,北欧のフィンランドは34.0%,お隣の韓国は35.3%,大国のアメリカは36.7%となっています。4割を超えている国もあり,アイスランドは41.5%,最高のスイスは43.7%です。この小国では,成人の半数弱が大卒学歴を持っていると。

 日本よりも大学教育が行き渡っている国って,結構あるのですね。ただ,これらの国に住んでいる人にすれば,「高校を出てすぐに大学行く人,あまりいないけどな」と思われるかもしれません。しからば,いつ行くのか。そう,社会に出て働き始めた後で行くのです。いわゆる,リカレント教育ってやつです。

 それを傍証するデータがります。大学入学者の平均年齢です。初めて入学した人の年齢平均で,入るのが2回目以降という人は含まれません。


 大学入学者の平均年齢が最も高いのはスイスで,24.53歳となっています。24.53歳というのは平均値で,30,40歳以上という人も結構いるはず。この国の成人の大卒率は最も高いのですが(最初の表),リカレント教育の機会が開かれているためと見られます。

 スウェーデンやデンマークといった北欧諸国も高いですね。大学生の3分の1が社会人と聞きますが,そうなのでしょうか。

 右側の短期高等教育機関に至っては,入学者の平均年齢がもっと高くなります。平均で30歳を超える国もあり,高校を出たばかりの若者ではなく,成人のリカレント学生を主な顧客としていることがうかがわれます。日本と違って,労働市場の流動性が進んでますので,職業訓練も担っているのでしょう。

 日本はというと,両方とも見事にどん尻で,いずれも18歳となっています。高校を出てすぐ入ってくる人がマジョリティだからです。日本の年齢主義がハッキリと出ていますね。

 青年期のみならず,成人期,壮年期,老年初期といったステージまで射程に据えて,大学教育の普及度を観察すると,日本は教育大国とはいえないようです。いや,青年期と,それより後のステージとの断絶が大きすぎると言った方が正確でしょうか。学校に通っている人の率の年齢カーブをみると,それがよく分かります。


 日本,アメリカ,フィンランドという3つの社会の年齢カーブです。10代では日本の在学率が最も高いですが,成人期以降,日本は急落し,20代後半以降は地を這うような推移になります。

 児童期,青年期までで見たら日本は教育大国かもしれませんが,それ以降の長い人生スパンも射程に入れると,とうていその名には値しません。教育列島ならぬ,教育劣島です。アメリカやフィンランドは右下がりの傾斜が緩やかで,後者では30代でも5人に1人が何らかの形で学校に通っていることが知られます。

 教育を受ける機会が人生の初期に限られている(偏っている)日本の様は,明瞭な「L字型」によって可視化されています。少子高齢化が進み,人生100年の時代になるというのに,これではいけません。

 わが国でも,変化を後押しする要因は出てきています。1つは,高齢化により時間を持て余す高齢者が増えていることです。2つは,年功賃金の崩壊,雇用の流動性の高まりにより,汎用性あるスキルを習得すべく,大学や専門学校といった外部機関での職業訓練へのニーズが増していること。2019年度にできた専門職大学は,それに応えるための機関です。あと1つは,大学側の要因で,成人学生を取り込まないとサバイブできない時代になりつつあるのは,業界関係者の誰もが知り得ています。

 AIやBI(ベーシックインカム)の導入により,人間の労働時間は激的に減るであろう,という予測もあります。そうなった時,人間は何をすべきか。最も健全な姿は,学習をすることです。そういう欲求を満たすのに,年齢の壁はないはずです。上図の「L字型」は2012年データのものですが,2030年代には変わっているはず。いや,変わっていないといけません。