「四当五落」という言葉があります。4時間しか寝ない受験生は試験に通るが,5時間も寝る者は不合格になる,という格言です。大学受験の時,この言葉を合言葉にして,勉学に勤しんだ経験を持たれる方も多いでしょう。かくいう私も,高校3年の時,担任教師からこの言を何度も聞かされました。
受験地獄とはよく言ったものですが,大学受験に関係する,悲惨な事件も過去に起きています。今から30年前の1980年11月29日,20歳の男子予備校生が,金属バットで両親を殴り殺すという事件が起きました。浪人生活2年目の加害者が,金銭の使い込みや飲酒を咎められて,逆上したことによるものです。
長期にわたる浪人生活で生活態度が不安定になっていたところに,親の叱責というきっかけ要因が結びついたが故の犯行といえるでしょう。
この加害者は,犯行時,浪人生活2年目(2浪目)であったそうです。ということは,1979年(現役時)と80年(1浪目)の受験に失敗していることになります,統計によると,1979年の大学入学志願者(浪人含む)は,約64万人です。この年の春の大学入学者は41万人ほどですから,単純に考えて,差し引き23万人が不合格になったことになります。志願者の36%が辛苦を舐めたということです。本事件の加害者もそのうちの1人でした。
今しがた述べたことは,今から30年前の状況ですが,他の時期ではどうだったのでしょうか。私は,大学入学志願者(浪人含む)と大学入学者の統計を時系列でつなぎ合わせて,以下の図を作成しました。統計の出所は,文部科学省(文部省)『学校基本調査報告』の各年次版です。
図の合格者とは,当該の年の大学入学者です。不合格者は,大学入学志願者数から入学者数を差し引いて得たものです。両者の差分の全てが,不合格者であるとは限りませんが,おおよその近似値としては使えるでしょう。この図から,各時期の受験競争の激しさをうかがうことができます。
志願者全体に占める不合格者の比率(不合格率)が4割を超えるのは,1966~69年と,1987~92年です。最高は1990年の44.5%で,この年では,志願者の半分近くが試験に失敗したことになります。当時は,第2次ベビーブーマが受験期にさしかかった頃であり,受験の激しさもハンパじゃなかったようです。ちなみに,私はこれより少し後の1995年の受験生です。
しかし,その後,志願者の数の減少と歩調を合わせるがごとく,不合格者も減ってゆき,2010年春の結果は,不合格1:合格9という構成になっています。図の左上に,1990年と2010年の組成図を載せましたが,両者の違いが明白です。「大学全入時代」,さもありなんです。
1990年に大学受験を経験したのは,現役生だと1971年生まれ世代です。この世代は,子ども期にかけて厳しい競争を課せられてきたわけですが,このことが,彼らの人格形成や社会化のありように,何かしら影響した,という側面はないのでしょうか。「ゆとり世代」と揶揄される今の学生世代と比べて,何か顕著に異なるところがあるのでしょうか。
子ども期の生活経験が,その後(成人後)の人生にどう影響するか,という問題は,社会学の主題の一つになり得ると思います。方法としては,個別訪問の形で1人1人に面接するというものがメインになるでしょうが,マクロな統計の面からも接近可能であると存じます。