2011年3月4日金曜日

大卒者の職業

 最近,「~力」という言葉をよく聞くようになりました。人間力,コミュニケーション力,云々…。「学士力」というのも,そのうちの一つです。大学を卒業すると学士という学位が得られますが,この学士の能力水準をきちんと保障すべく,大学教育をしっかりやれ,という通達が文科省より出ています。いわゆる「学士力の向上」です。

 しかるに,大学で学んだ専門分野と関係のない仕事に就く学生が少なくないことを思うと,こうしたお上の通達も,いささか白々しく聞こえてきます。私が武蔵野大学で担当したゼミは,教育学・社会病理学ゼミですが,2年間のゼミ生35名のうち,教員や矯正関係の職に就いたものは皆無です。

 これはあまりにタイトな対応関係を想定した例ですが,では,少し基準を緩めて,大卒の就職者のうち,高度な専門知識・技術を要すると思われる専門・技術職に就く者はどれほどいるのでしょうか。私は,50年前の1960年と2010年現在について,大卒就職者が就いた職業の構成を比較しました。資料は,文部省『日本の教育統計』(1966年),および文科省『平成22年版・学校基本調査(高等教育機関編)』です。なお,男女比の変化の影響を除くため,男子に限定した統計を示します。


 男子の大卒就職者の数は,この半世紀の間で,約9万人から17万人へと増えています。就いた職業はというと,専門技術職は39%から32%に減っています。ほか,減少が著しいのは事務職で,42%から29%に減っています。代わって,販売職やサービス職の比重の増加が明らかです。

 学士力というのは,ある程度の語学力,コミュニケーション能力,学術的なプロセスを踏んだ問題解決能力などを含むものであって,こうした諸能力は,どの職業でも求められるものだ,といわれればそれまでです。しかし,そうした能力は全く要しない,むしろ邪魔にさえなる「え?」というような仕事を割り振られるケースのほうがはるかに多いのではないでしょうか。卒業生の何人かと話してみて,強く感じるところです。

 実情がこうであるのに,新規入職者の全てに大卒学歴(=学士力)を要求する社会というのは,何とも窮屈です。わが国が,こういう社会になりつつあることは,職業を問わず,新規入職者のほとんどが大卒者によって浸食されている事実からうかがうことができます。このデータは,次回にお見せします。