2010年の小学校教員採用試験の受験者は54,418人で,10年前の2001年の46,770人よりも増えました。これだけみると競争が激化したように思えますが,採用数が5,017人から12,284人へと倍以上になりましたので,競争率は9.3倍から4.8倍へと下がりました。
しかし,この10年間の変化は,県によってまちまちです。東京は4.6倍から3.5倍に下がりましたが,東北の青森では,11.5倍から25.2倍へと増えました。ただでさえ高かった競争率がさらに高まり,この県では,小学校の教員になるのが非常に難しい状況です。一方,競争率を大きく低下させた県もあります。その最たる例が徳島で,2001年の35.8倍から2010年の5.5倍へと激減しています。
他の県はどうなのでしょうか。私は,47都道府県について,小学校教員採用試験の競争率の変化を一望できる図をつくりました。下図は,横軸に2001年の競争率,縦軸に2010年の競争率をとった座標上に,47都道府県を位置づけたものです。各県の競争率の統計は,文科省のサイトから得ました。URLは以下です。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/senkou/1243155.htm
なお,指定都市の分は,当該都市が位置する県の分と合算しています。たとえば,横浜市は,神奈川県の統計に組み入れています。
直線Y=Xよりも上方にある県は,この期間中に競争率が上がった県です。Y=XとY=X-10の間にある県は,0~10ポイント下がった県です。Y=X-10とY=X-20の間の県は,10~20ポイント下がった県です。Y=X-20よりも下方に位置する県は,競争率が20ポイント以上下がった県です。順に,Ⅰ型(増加型),Ⅱ型(微減型),Ⅲ型(減少型),Ⅳ型(激減型),と命名しましょう。
団塊世代の大量退職により,多くの県の競争率が低下しているなか,競争率を増加させているのは,青森,福井,岩手,長崎,鹿児島,および新潟の6県です。一方,競争率を20ポイント以上下げている県は,沖縄,栃木,徳島,そして和歌山の4県です。首都の東京は,1.1ポイント減で,Ⅱ型に属しています。
しかしまあ,Ⅳ型の県では,激戦を勝ち抜いた「精鋭」世代と,「ゆとり」世代の教員が混在することになるわけです。これらの世代は,年齢もそれほど違いません。たとえば徳島では,10年前の試験で35倍の競争をくぐりぬけた世代と,5倍ほどの競争率の世代が机を並べて勤務するわけです。このようなギャップが,何かよからぬ事態を引き起こすことはないでしょうか。
ここで検出したタイプによって,教員の不適応の量がどれほど異なるかは興味深い問題です。教員の不適応の量的規模は,たとえば,離職率のような指標で測れるでしょう。現在,精神疾患で休職する教員が増えていますが,こうした問題を考えるに際しては,教員集団の組成の側面からも迫ってみる必要があると思います。