2009年8月30日の衆議院議員選挙の結果,自民党から民主党へと政権が移りました。前者にとっては,結党以来初めて衆院の第1党の座を追われるという,歴史的な一大事です。深刻な経済不況,進む格差社会化など,好ましくない社会状況に愛想をつかした国民の多くが,政権交代を望んだため,という見方がなされています。
この選挙の小選挙区の投票率は,東京都の場合,66.4%でした。投票率とは,有権者のうち,投票を行った者の割合です。この投票率を,都内の地域別にみると,最も高い檜原村の71.9%から,最も低い江戸川区の62.2%まで,10ポイントほどの開きがあります。島部をのぞく,都内の53市区町村の値を,地図化すると,以下のようになります。データは,東京都選挙管理委員会のホームページから得ました。URLは,http://www.senkyo.metro.tokyo.jp/h21syugiin/indexb.html です。
70%を超える高率地域は,千代田区,文京区,北区,檜原村,および日の出町です。前3者の区部では,政治意識の高いインテリ層が多いためでしょうか。後2者の群部では,若者が少なく,高齢層が比較的多いためでしょうか。
これは一部ですが,53地域すべての傾向を観察すると,やや気になる傾向が出てきます。私は,東部の地域が軒並み白く染まっていることに関心を持ちました。1月12日の「健康格差」の記事で指摘しましたが,これらの地域は,都内でも貧困層が比較的多い地域です。
私は,それぞれの地域の投票率が,生活保護世帯率とどういう関連にあるのかを調べました。後者は,2009年の生活保護世帯数(月平均)が,同年の全世帯数に占める比率のことです。資料は,東京都の『福祉・衛生統計年報』です。この指標が最も高いのは,台東区で76.5‰となっています。全世帯の7.6%が生活保護を受けている,ということです。
上記の相関図によると,必ずしも明確ではありませんが,生活保護率が高い地域ほど投票率が低い,という傾向が看取されます。相関係数は-0.3249でした。53というサンプル数を考慮すると,5%水準で有意であると判定されます。生活保護率が飛びぬけて高い台東区を外れ値として除くと,相関係数は-0.3701となります。
個人単位でみれば,年齢が高い者ほど,社会階層が高い者ほど,政治意識が高いと考えられますので,さして驚くべきことではないのかも知れません。しかし,それも度が過ぎると,選挙という民主主義的な過程を経て,既存の(不平等)構造が再生産されていく,というようなことが起こり得るのではないでしょうか。
政治学の分野の一つに,選挙行動分析というものがあるかと思いますが,社会階層と投票行動の関連について,どういう事実が明らかになっているのか。また,それに対し,どういう考察がなされているのか。私としては,興味を持ちます。