携帯電話(以下,ケータイ)は,現代の偉大な発明品です。どこにいても通信することができ,各種の情報収集を行うことも可能です。この文明機器は,大人のみならず,子どもの間にも相当出回っているようです。
ですが,このことが教育の現場によからぬ事態をもたらしていることも,よく知られています。授業中に生徒がメールやゲームなどをすることで,学校の教授活動に支障が出るケースも少なくないと聞きます。
こうした問題を認識した文部科学省は,2009年1月30日の通知にて,小・中学校ではケータイの持ち込みを「原則禁止」,高校では「使用制限」という方針を打ち出したところです。
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/1234695.htm
しかるにケータイは,外部社会の有害情報と子どもを直に接触させるツールでもあります。大人社会と子ども社会のボーダレス化(境界喪失)がいわれますが,ケータイが一役買っていることは,疑い得ないところです。学校にいる間だけ,使用を禁止ないしは制限すればよい,というわけでもなさそうです。
このように,いろいろと問題をはらむケータイですが,子どものどれほどがそれを持っているのでしょうか。この点については,文科省の実態調査などで明らかにされていますが,公立と私立ではどう違うか,地域間の差はどうか,というようなことも気になります。今回は,こうした細かいデータをご覧に入れようと思います。
文科省の『全国学力・学習状況調査』では,対象の児童・生徒に対し,「携帯電話で通話やメールをしていますか」と問うています。2009年度調査の結果でいうと,この問いに対し,「携帯電話を持っていない」と答えた者の比率は,公立小学校6年生で69.4%,公立中学校3年生で39.8%です。裏返すと,前者の30.6%,後者の60.2%がケータイを持っていることになります。この値をもって,ケータイの所有率といたしましょう。
http://www.nier.go.jp/09chousakekkahoukoku/index.htm
学校の設置主体別,地域類型別に,ケータイの所有率を出すと,下表のようです。出所は,2009年度の上記文科省調査の結果です。
学校の設置主体別の数字をみると,公立よりも国私立校でケータイの所有率は高くなっています。私立では,小6の児童でも,およそ7割がケータイを持っているようです。公立の倍以上です。幼い子どもを遠方に通わせる関係上,安全確認の手段として,ケータイを持たせる親御さんが多い,ということでしょうか。
下段の地域類型別の欄に目を移すと,農村地域よりも都市地域で所有率が高いことが明白です。都市部では,夜遅くまで塾通いをする子どもが多いためと思われます。緊急時の連絡手段の意味合いで,ケータイを持たされる子どもも多いことでしょう。
次に,都道府県別のケータイ所有率をみてみましょう。上記の文科省調査から,公立学校の児童・生徒の所有率を県別に知ることができます。
予想されることですが,ケータイの所有率は県によってかなり違っています。小6では,最高の東京(45.9%)から最低の秋田(15.5%)まで,30.4ポイントの開きがあります。中3では,最高の神奈川(79.7%)から最低の山形(30.6%)まで,49.1ポイントもの開きが観察されます。
東京や神奈川では,小6の児童でも4割以上がケータイを持っていますが,秋田では,おおよそ6人に1人という水準です。むーん。すごい差ですねえ。しかるに,県間の差は,中3になるともっと広がります。最大値から最小値を引いたレインヂのみならず,標準偏差でみても然りです。
中3のケータイ所有率の都道府県別数値を地図化すると,下図のようになりました。10%区分で各県を塗り分けています。
首都圏の1都3県と大阪は,黒く染まっています。これらの都市地域では,ケータイの所有率が7割を超える,ということです。赤色と黒色の高率ゾーンは,関東地方と近畿地方に偏在しています。その一方で,東北,中部,南九州などの諸県は,色が薄くなっています。
ケータイの所有率には,相当の地域差があります。次なる関心事は,この率の高低によって,子どもの育ちがどう異なるか,ということです。この問題を追及することで,巷でいわれているケータイの悪しき効果の真偽を検証できるかと思います。
たとえば,学力調査の上位県の常連である秋田や福井では,ケータイの所有率は低くなっています。ケータイを持つことで,勉強に手がつかなくなる,というような因果関係があるのでしょうか。
また,子どもの福祉犯被害率との相関も気になるところです。子どもは,ケータイを介して,出会い系サイトなどの有害情報に接することが多いと思われます。実際に,両指標の間に正の相関関係が認められるかどうか・・・。
文科省の上記調査では,「携帯電話で通話やメールをしていますか」という設問に対し,「ほぼ毎日」,「時々」,「ほとんどせず」,「携帯電話は持たず」という程度尺度で答えてもらっています。この回答分布から,各県の子どものケータイ利用度を数量的に可視化することができます。
この指標を使って,先ほど述べた諸課題を追求してみたらどうでしょう。面白い結果が出ましたら,この場でご報告いたします。