2011年11月15日火曜日

ケータイ利用と非行の関連

前回は,子どものケータイ所有率を県別に明らかにしました。今回は,各県の子どものケータイ利用度が,非行少年の出現率とどう相関しているのかをみてみようと存じます。

 前回述べたことですが,ケータイは,子どもをして,外部社会の有害情報と直に接触せしめるツールでもあります。文科省や警察庁は,子どものケータイに,有害情報を選別的に排除する「フィルタリング」機能を備え付けることを推奨していますが,100%完全とまでは行っていないのが現状です。

 そうである以上,ケータイの利用度が高い子どもほど,非行を犯す確率は相対的に高いのではないでしょうか。県単位の統計でもって,この仮説を検証してみようと思います。

 文科省の『全国学力・学習状況調査』では,対象の児童・生徒に対し,「携帯電話で通話やメールをしていますか」と尋ねています。神奈川県の公立中学校3年生の回答分布は,「ほぼ毎日」が43.6%,「ときどき」が29.5%,「全く,または,ほとんどしない」が6.5%,「携帯電話を持たず」が20.3%,です(2009年度調査)。

 この回答分布をもとに,当該県の公立中学校3年生の「ケータイ利用度」を数量的に表現してみましょう。「ほぼ毎日」に3点,「ときどき」に2点,「全く,または,ほとんどしない」に1点,という点数を与えます。「携帯電話を持たず」は0点とします。こうした場合,当該県の公立中学校3年生の平均点(average)は,次のように算出されます。
 {(3点×43.6人)+(2点×29.5人)+(1点×6.5人)+(0点×20.3人)}/100人 ≒ 1.96点

 この平均点をもって,ケータイの利用度といたしましょう。私は,上記の文科省調査の対象となっている公立小学校6年生と中学校3年生について,このやり方で,ケータイの利用度を県別に出しました。2009年度調査の結果を用いています。下記サイトで閲覧可能です。
http://www.nier.go.jp/09chousakekkahoukoku/index.htm

 この指標と,非行者出現率の相関関係をとってみます。非行者出現率とは,2009年中に警察に検挙・補導された少年の数を,全児童・生徒数で除した値です。小学生と中学生について,同じく県別に計算しました。分子の検挙・補導人員数(非行少年数)は,警察庁『犯罪統計書-平成21年の犯罪-』より得ました。分母の小学生数,中学生数は,文科省の『学校基本調査』(2009年度版)よりハントしました。

 以上の統計指標を47都道府県について算出した一覧表を掲げます。下表をご覧ください。


 子どものケータイ利用度には,かなりの地域差があります。傾向は,前回みたケータイの所有率の地域差と近似しています。おおよそ,都市県で高く,農村県で低いようです。右欄の非行少年出現率にも相当の都道府県差がありますが,こちらは,傾向は不明瞭です。都市的な県で高いというような,単純な話でもなさそうです。

 では,両指標の相関をとってみましょう。aとcの相関係数は-0.2276,bとdの相関係数は0.4860となりました。後者は,1%水準で有意と判定されます。中学生の場合,ケータイ利用度と非行率の間に,統計的に有意な正の相関関係が観察されます。以下に,相関図を示しておきます。


 私はこれまで,各県の非行率と関連する統計指標を探査してきましたが,ここまで強く相関する指標には,あまりお目にかかったことはありません。ケータイは偉大な発明品ですが,子どもを悪の世界へと引きずり込む負の機能をも果たしかねないことが,マクロな統計分析の結果からも示唆されます。

 こうした事態を防ぐため,当局は,有害情報をブロックする「フィルタリング」機能の利用を強く推奨しているところです。しかるに,この機能の利用率にも,かなりの地域差があるそうです。
http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110825/crm11082517240031-n1.htm

 子どものケータイ利用度が高く,且つ,フィルタリング利用率が低い。こういう(要注意)県を割り出し,当該県の逸脱行動発生率を解析してみるのも,また一興です。考えられる要因指標を追加していくことで,知見の精度をより高めてゆこうと思っています。