2011年11月22日火曜日

自殺の手段

1993年7月,鶴見済さんの『完全自殺マニュアル』が太田出版より刊行されました。タイトルのごとく,自殺のやり方を詳細に解説したマニュアル本です。
http://www.ohtabooks.com/publish/1993/07/05202311.html

 この本は大変な反響を呼び,大ベストセラーとなりました。私は2009年4月にこの本を購入したのですが,奥付をみると,「2008年11月23日第104刷発行」と記されています。つまり,1993年の初版発刊以降,104回の重版を重ねた,ということです。現在では,もう少し版を重ねているものと思います。

 しかるに,この本はいろいろと「すったもんだ」を起こしたようであり,東京都の青少年条例にて有害図書に指定されるという,憂き目にも遭っています。少し大きな書店に行けばありますが,立ち読みができないよう,ビニールで封がされ,「18歳未満の青少年の購入禁止」という帯がつけられています。

 自殺を助長するとはけしからん,というような悪評が多数であると聞きます。しかし,鶴見さんの意図はそういうことではなく,むしろ逆のことであると思います。本の帯(上記の帯とは別)には,以下のように記されています。

 「世紀末を生きる僕たちが最後に頼れるのは,生命保険会社でも,破綻している年金制度でもない。その気になればいつでも死ねるという安心感だ!」

 事実,「本気で自殺を考えてこの本を手に取ったが,いつでも死ねる(逃げられる)という安心感のようなものが得られて,生きる意欲が湧いてきた」というような感想も多く寄せられているそうです。なるほど,確かにそういう効果も秘めている本だろうな,と私も思います。

 この本では,主な10の自殺手段について1章ずつが充てられ,基礎知識,具体的なやり方,歴史上のエピソードなどが,若干のユーモアを交えながら淡々と記されています。各章の冒頭では,当該の章で解説する自殺手段について,①苦痛,②手間,③見苦しさ,④迷惑,⑤インパクト,および⑥致死度が5段階で評定されています。それをまとめてみると,以下のようです。


 一番上の「縊首」とは,首つりのことです。首つりは,苦痛がない一方で(1),確実に死ねる手段であるようです(致死度5)。焼身は,大きな苦痛を伴いますが,インパクト抜群で,致死度も高いと評されています。

 予想されることですが,鉄道自殺に代表される「飛び込み」は,迷惑度がマックスです。死体の見苦しさもハンパじゃありません。

 女性の場合,きれいな姿で死にたい,という要望もあるかと思いますが,ポピュラーな首つりは,失禁するなど,死体が結構見苦しいそうです。見苦しさが「1」なのは,ガス,薬物,手首切り(リスカ),ならびに感電とされています。

 どうでしょう。ラクに確実に死にたい,というのであれば,首つりや飛び降りが適していることになります。抗議の意味を込めたインパクト重視というなら,飛び込みや焼身がオススメということになります。現実の日本社会では,最近,年間3万人ほどが自殺していますが,どういう手段による自殺が多いのでしょうか。

 厚労省の『人口動態統計』によると,2010年の自殺者29,554人の自殺手段の構成は,縊首が66.4%,ガスが13.3%,薬物が3.2%,溺死が2.8%,飛び降りが8.1%,飛び込みが2.1%,その他が4.2%,となっています。「ラク」と「確実」を重視した,首つりと飛び降りが多くを占めます。鉄道自殺でよくニュースになる飛び込みは,わずか2.1%です。

 自殺手段の構成の時代推移をたどると,下図のようになりました。1958年(昭和33年)からの変化を,面グラフで明らかにしています。


 始点の1958年では,薬物による自殺が最も多くを占めていました。しかし,時代の経過と共に,首つりのシェアが増してきます。1970年に48%,1990年に57%となり,2010年の66%に至っています。

 80年代頃から,飛び降りの比重も高まってきます。高層団地などの建設により,飛び降りを図る環境条件が整ってきたからでしょうか。代わって,飛び込みや溺死の比率が少なくなってきます。鉄道自殺のような飛び込みは,昔のほうが多かったのですね。

 総じてみると,「ラク」と「確実」を求める傾向が強まっているようです。上図の構成比率のデータと,鶴見さんによる評点のデータを使えば,各時代の自殺の苦痛度平均点,インパクト平均点,迷惑度平均点のような指標を出せます。

 長くなりますので,この辺りで止めにしましょう。次回は,自殺の苦痛度や迷惑度の平均量が,昔から今までどう変わってきたのかを明らかにしてみようと思います。