前回の続きです。内閣府の『社会意識に関する世論調査』では,現代の世相の暗いイメージを表現する言い回しを,複数回答で尋ねています。
http://www8.cao.go.jp/survey/index-sha.html
前回は,「暗い」と「不安なこと,イライラすることが多い」の選択率が,1990年代以降どう変わってきたかをみました。今回は,「活気がない」,「連帯感が乏しい」,「ゆとりがない」の3項目の選択率に注目しようと思います。「失われた20年」にかけて,これらの選択率は高まってきているものと思われます。
まずは,対象者全体(20歳以上)の選択率がどう変化したかをみてみましょう。下表は,始点の1992年と終点の2012年の数値を比べたものです。
予想通り,どの項目の選択率もアップしています。「活気がない」の選択率は,6.9%から30.2%と4倍以上にも増えています。バブルの余韻がただよう90年代初頭からすれば,今のご時世を「活気がない」と感じる者が増えているというのは頷けます。
「連帯感が乏しい」は微増,「ゆとりがない」は2割強から4割弱へと増加しています。後者は,時間的・経済的の双方を含んでいると解してよいでしょう。
次に,年齢層別の選択率の変化を観察します。1992年以降の隔年のデータをつなぎ合わせてみました。それぞれの年における各年齢層の選択率を色の違いから読み取る,「社会地図」図式です。どの部分に紫色や黒色の膿が広がっているかをみてください。
まずは,「活気がない」の年齢層別選択率です。2010年以降,怪しい紫色(30%以上)が広がっています。世相の暗部を,「活気がない」ことに見出すのは,年齢層を問わないことが知られます。2010年の若年層では,選択率が4割を超えていました。
続いて,「連帯感が乏しい」です。最近にかけて,中高年層の部分が紫色(3割以上)に侵食されてきています。ちょっと前の50代は黒色(35%以上)でした。
「連帯感が乏しい」と感じる者が中高年層に多いのは,分かる気がします。第1に,彼らは一昔前の状況を知っている世代です。第2に,今の中高年層は,会社からリストラされ,家族(子ども)からは老後の扶養を拒否されるのではないか,という恐れにおののいています。
十分な経済力があるにもかかわらず,親族(老親)の扶養を拒否する輩が増えているといわれます。現在では,介護や相互扶助のような,以前は家族が担っていた機能が軒並み外部化(「社会化」)されています。会社も,長年尽くしてきた人材を容赦なくリストラする時代です。「つれない世の中だ・・・」。50代あたりの人間に,こういう意識を持つ人間が多いということに,違和感は感じません。
最後に,「ゆとりがない」です。近年,働き盛りの層に紫色(40%以上)が広がってきています。調査票には明記されていませんが,ここでいう「ゆとり」は,時間的な意味と経済的な意味の双方を含んでいると解してよいでしょう。
「働けど働けどなお我が暮らし楽にならざり」(石川啄木)。2008年のリーマンショック以降,多くの労働者がこういう暮らしを強いられていることがうかがわれます。雇用の非正規化が進んでいることは,5月18日の記事でみたとおりです。
私は,社会の影の部分をみるのが商売ですので,世相の暗いイメージに焦点を当てましたが,上記の世論調査では,世相の明るいイメージについても問うています。関心がある方は,同じ統計をつくってみられたらいかがでしょう。もしかすると,希望を掻き立ててくれるような統計図ができるかもしれません。その時は,よろしかったらご一報を。