2013年10月3日木曜日

学部別の正規就職率・無業率の分布

 前回は,読売新聞教育部『大学の実力2014』(中央公論新社)のデータを使って,全国の大学学部別の退学率分布を明らかにしました。「在学期間中の退学率 × 初年次退学率」の布置構造図を掲げましたので,自分が在学(志望)している学部がどこに位置するかを把握するのに使っていただけたらと思います。



 さて,退学率と並んで大学関係者の関心をひくのは,卒業後の進路でしょう。読売新聞の全国大学調査では,卒業後の進路も尋ねており,上記資料には,今年(2013年)春の卒業生の進路内訳が学部ごとに掲載されています。

 統計表に載っているのは,①卒業生数,②正規就職,③契約,④パート等,⑤研修医,⑥進学,⑦その他,です。私はこのデータを用いて,各学部の卒業生の正規就職率と無業者率を計算しました。算出式は,以下の通り。

 正規就職率=(②+⑤)/(①-⑥)
 無業率=⑦/①

 正規就職率ですが,医学部の場合,キャリアが研修医から始まるケースが多いので,⑤も分子に含めることとしました。⑥の大学院等進学者は就職の意志がない者として,分母から除きました。無業率とは,就職でも進学でもない「その他」というカテゴリーの者が,卒業生全体に占める比率です。

 卒業生が100人に満たない学部を除外すると,この意味での正規就職率と無業率の両方を明らかにできるのは,全国の大学の1,481学部です。下図は,横軸に正規就職率,縦軸に無業率をとった座標上に,これらの学部を位置づけたものです(点線は平均値)。明と暗の2次元上の布置構造をご覧ください。


 正規就職率と無業率はトレード・オフの関係にあるので右下がりの分布図になっています。傾向から外れているのは,他の進路(非正規就職)の比重が高い学部です。

 正規就職率が76.0%,無業率が14.0%というのが平均的なすがたですが,個々の学部の位置は広く分布していますね。左上のほうに,卒業生の無業率が50%を越える学部が2つありますが,片方は人文系,もう片方は芸術系の学部です。

 高校生のみなさん,上記の原資料から,入学を考えている学部の正規就職率・無業率を計算し,上図のマトリクスの中に置いてみてはいかがでしょう。オープンキャンパスや入学案内で語られていることとは違った,「真のすがた」が分かるかもしれませんよ。

 ついでに前回と同様,国公立と私立で分けた布置構造図も提示しておきます。目盛は省いていますが,上記の全体図と同じです。


 どちらかといえば,私立のほうが左上になびいていますが,国公立でもかっとんだ位置にある学部があります。芸術系の某学部です。

 現段階ではまだ,設置主体で分けた分析しかできませんが,各学部の教育実践の中身に応じて,上図の図柄がどう変異するかは大変興味ある問題です。読売新聞の大学調査では,ゼミを必修にしているか,討論中心の授業をしているかなど,教育実践の内実についても尋ねています。

 これらの項目を合成して,各学部の教育熱心度を測る尺度を構成し,その高低に応じて,布置構造がどう変わるかを観察したらどうでしょう。そうした教育熱心度の効果が,偏差値のようなインプット要因を凌駕する傾向が分かったらもっと面白い。今後の課題としたいと思います。

 現在,偏差値との関連を分析するため,学研の『大学受験案内2014』を図書館経由で取り寄せています。到着次第,データ入力・分析にかかりますので,しばしお待ちください。