2013年12月29日日曜日

青年期の自殺の国際比較

 前回は,25~34歳の自殺量の国際比較をしたのですが,それより1段下の15~24歳の状況にも関心が持たれます。シューカツ失敗自殺に象徴されるように,わが国では,学校から社会への移行期の危機が強まっているといわれます(たとえば22歳)。

 今回は,15~24歳の自殺の国際比較をしてみようと思います。この層は,子どもと大人の狭間にあり,社会において果たす役割を見つけることを期待される青年層です。以下では,青年ということにいたしましょう。

 自殺量の指標ですが,まずは,自殺者がベース人口のどれほどに相当するかという,自殺率を出しましょう。それとあと一つ,死因全体に占める自殺の比重も計算してみます。最近の日本では,青年層の死因の半分が自殺などといわれますが,他国ではどうなのかに興味を持ちます。

 私は,WHOの“Mortality Database”にあたって,計算に必要な数値を79か国分収集しました。手始めに,わが国を含む主要6か国のデータをみていただきましょう。カッコ内は,統計の年次です。
http://apps.who.int/healthinfo/statistics/mortality/whodpms/


 ほう。死因中の自殺比,自殺率とも,日本がトップですね。その次は,お隣の韓国。この東アジアの2国と欧米4か国の間に断絶があります。

 前回みたように,25~34歳では韓国の自殺率が最も高いのですが,1段下の青年層では,わが国のほうが高いのだなあ。あと,死因に占める自殺の比重が高いのは,やっぱり日本の特徴なのですな。

 今みたのは6か国ですが,比較の対象を79か国に広げてみましょう。上記の2指標をもとに2次元のマトリクスを構成し,その上に79の社会を散りばめてみました。点線は,79か国の平均値を表します。ほとんどの国が2008年のデータですが,上表の韓国と米国のように,年次が前後にズレている国も若干あります。ご了承ください。


 やっぱり世界は広し。縦軸の自殺率でみると,わが国よりも値が高い社会が7つあります。カザフスタンやロシアなど,旧共産圏の青年の自殺率が高いのはよく聞くところですが,北欧のフィンランドが入っているのがちと意外。でも後述のように,この社会では,以前に比したら青年の自殺率はグンと下がっているのですが。

 次に,横軸の死因中の自殺比でみると,こちらはわが国がトップです。青年の死因の4割超が自殺であるのは,世界を見渡しても日本だけなり。まあこのことは,病気や事故で命を落とす青年が少ないことと表裏ですが,わが国の青年の「内向性」が垣間見れるような気がします。「自己責任!」が美徳とされる社会ですから。

 最後に,20年前の1990年に比して,各国の位置がどう動いたかを観察してみましょう。色をつけた8か国について,1990年のデータをつくり,上図の最近のドットと線でつないでみました。下の図にて,8つの社会の位置変化を見てとることができます。矢印のしっぽは1990年,先端は上図と同じ位置を表します。


 この20年間で右上に大きく動いているのは,日韓の2国だけです。米英とフィンランドはその逆。フィンランドなんかは,90年代以降にかけて青年の自殺率が半減しているではありませんか。役割模索期の青年にとっての「失われた20年」は,万国共通のものではないのですね。

 なお,フィンランドの自殺率低下の事情については,下記の記事にて紹介されています。
http://xbrand.yahoo.co.jp/category/lifestyle/4917/4.html

 われわれは,今,自分が目にしていることを「普遍的」であるかのように思いがちですが,そういうことはなく,時代比較や国際比較をすることで,「今,ここ」という呪縛から己を解き放つことができます。そのためのデータを提供することも,社会学の重要な役目なのではないか,と考えております。