2016年2月26日金曜日

同じ労働時間の正規・非正規の年収比較

 「同一労働・同一賃金」のかけ声のもと,同じ仕事をしている正規・非正規の収入格差を撤廃する方針が打ち出されています。

 わが国では,正規・非正規の収入格差があることは,誰もが知っています。私も前に,データでそれを明らかにしたことがあります。性別や年齢をそろえても,正規と非正規では大きな開きがあります。それは,年収の年齢カーブをみれば一目瞭然です。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=3559

 しかしそれは,労働時間や仕事の中身の違いによるのも確かです。こうした基本条件をそろえた比較ができないかと前から思っていたのですが,『就業構造基本調査』でそれが可能であることを知りました。

 2012年調査の公表統計をみると,「従業上の地位×所得×週間就業時間・年間就業日数」のクロス表があるではありませんか。下記サイトの表30です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&tclassID=000001048178&cycleCode=0&requestSender=search

 これを使えば,同じ労働時間(日数)の正規・非正規の年収分布を出すことができます。年間200日以上の規則的就業をしている雇用者のデータを使って,それをつくってみましょう。

 手始めに,年間250~299日就業・週43~48時間の雇用者の年収分布をみてみます。量的に最も多い層です。まあ,普通のリーマンはこんなところでしょう。


 この層に属する雇用者で年収が判明するのは,正規が467万人,非正規が77万人ほどです。後者の比率(非正規率)は,14.2%,およそ7人に1人です。正社員と変わらぬくらい,バリバリ働いている非正規労働者も結構いますね。パートやバイトはともかく,派遣社員や契約社員には,そういう人も多いでしょう。

 しかるに,同じくらい働いていても,正規と非正規では年収の分布がかなり違っています。右欄の構成比のヒストグラムをみれば明らかです。

 階級値を使って,両群の平均年収を計算すると,正規が420.1万円,非正規が232.3万円となります。労働時間(日数)がほぼ同じであるにもかかわらず,正規と非正規では,年収に200万近い開きがあります。仕事の内容まで揃えることはできませんが,これは就業地位という外的属性に由来する,格差と形容してもいいでしょう。

 これは,年間250~299日・週43~48時間就業の雇用者の比較結果ですが,他の群の比較データもお見せしましょう。同じやり方で,9つの群の正規・非正規の平均年収を比べてみました。


 赤字は,先ほど取り上げた,年間250~299日・週43~48時間就業の群です。この群だけでなく,他のどの群でも,正規と非正規の平均年収は大きく開いています。倍率にすると,1.8~2.2倍です。

同じくらい働いても,正規と非正規という外的属性によって,収入が大きく異なる。仕事内容をそろえれば,差はもっと小さくなるでしょうが,どの程度に落ち着くことか・・・。

 外国はどうなのかと,ISSPのデータを使って,正規と非正規の収入差の国際比較をしようとしたのですが,このデータでは,就業者にそういうカテゴリー区分がありません。フルタイムとパートタイムという区分すらありません。就業地位による労働者の区分けというのは,「日本的」なものなのでしょうか。

 「同一労働・同一賃金」を掲げる冒頭の政策によって,事態はどう変わるか。いや,変わらねばなりません。私個人としては,現代の身分差別とでも言い得る,大学の専任・非常勤格差がどう変化を遂げるかに,強い関心を抱いています。