2011年1月12日水曜日

健康格差

 再び,子どもの肥満についてのお話です。国内の地域別にみると,肥満児が多い地域,少ない地域が見受けられます。私は,『47都道府県の子どもたち』武蔵野大学出版会(2008年)において,小・中学生の肥満児出現率を県別に出したことがあります。それによると,上位5位は,青森,宮城,北海道,岩手,徳島,でした。ほとんどが北国です。雪に閉ざされた冬場の運動不足の影響が大きいのではないか,と推測されました。

 しかるに,気候のような自然条件を同じくする場合であっても,肥満児の多寡には,やはり地域差があります。私は,東京都教育委員会『東京の学校保健統計・平成21年版』の統計を使って,都内49市区について,公立小・中学生(男子)の肥満児出現率を出しました。本調査でいう肥満児とは,学校医によって肥満傾向にあると判定された者のことです。文科省調査でいう肥満児の定義(肥満度20%以上)とは異なることに留意ください。

 私が住んでいる多摩市の場合,上記の意味での肥満児は33人と報告されています。同市の公立小・中学校在籍者(5,056人)の0.65%に相当します。49市区の平均値(2.28%)よりもかなり低い水準です。この値の高低に基づいて,49市区を塗り分けた地図を示すと,下図のようです。


 0.5%刻みで塗り分けています。注目されるのは,黒色の3%を超える地域が,都内の東北部に集中していることです。最も率が高い台東区(4.32%)は,このゾーンに位置しています。

 私は,この図をみて,各地域の肥満傾児出現率は,生活保護率のような貧困指標と関連があるのでは,と直感しました。そこで,生活保護世帯数を総世帯数で除した生活保護世帯率(2008年データ)を出し,肥満児出現率との相関をとってみました。以下は,その相関図です。


 予感通り,正の相関でした。生活保護世帯率が高い地域ほど,肥満児出現率が高い傾向にあります。相関係数は0.667であり,1%水準で有意であると判断されます。図の右上に位置するのは台東区です。同区は,両指標とも最も高い位置にあります。

 子どもの肥満は,生理現象・自然現象と考えられがちですが,社会現象としての側面も持っていることが分かりました。2004年の中央教育審議会答申は,子どもの肥満化の原因として,食生活の乱れというものを指摘していますが,こうした乱れは,貧困家庭に偏在している,ということもできるでしょう。朝食を食べさせない,食事は菓子パンやインスタントラーメンばかりなど…

 現在,格差社会化が進行しているといわれます。このことは,育った家庭環境と結びついた,子どもの学力格差を大きくさせるといわれますが,ここでみたような健康格差をも顕在化させる恐れがあります。この面にも,研究者の関心が注がれることを願うものです。