11月2日のニューズウィーク記事にて,日本人の睡眠時間が世界で最も短いこと,それがイノベーション社会への変革を阻害する条件となっていることを指摘しました。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2015/11/post-4061.php
日本人のどの層の睡眠時間が短いかというと,中年女性です。上記記事の図2の年齢曲線によると,40代後半女性の睡眠時間がことに短くなっています。高校生くらいの子がいる年代ですが,弁当づくりなどのため早起きを強いられるのでしょう。
また,老親の介護も始まる時期であることから,育児と介護のダブルケアを負わされる女性も多いとみられます。晩婚化・晩産化が進んでいる現在では,育児と介護の時期が重なるようになってきています。今後,こうしたダブルケア女性の過労の問題も台頭してくることでしょう。
今回は,もう少し分析を深めてみます。中年女性の睡眠時間が短いのですが,それが顕著なのはどの地域か。言わずもがな,大都市と地方では違うでしょう。都道府県レベルの統計を使ってデータを作ってみましたので,それをご覧に入れようと思います。国内の地域差の吟味です。
中年女性の中でも寝ていないのは,子どもがいる女性です。ここでは,子育て期の女性に焦点を当てることとします。
2011年の総務省『社会生活基本調査』から,子育て期の男女の平均睡眠時間を都道府県別に知ることができます。平日1日あたりの平均睡眠時間を,末子の発達段階別に採取し,折れ線グラフにすると,下図のようになります。全国と大都市・神奈川県のグラフです。
http://www.stat.go.jp/data/shakai/2011/index.htm
男性はさておき女性は,子どもが大きくなるにつれて,睡眠時間が短くなっていきます。都市部の神奈川ではその傾向が顕著で,全国の折れ線に比して,右下がりの傾斜が大きくなっています。とりわけ,子が中学校から高校に上がることに伴う変化が著しく,睡眠時間が30分近くも減ります(386分→359分)。
高校生の子がいるとなると,弁当作りのため早起きをしないといけませんが,遠距離通学の多い都市部では,その時間が早くなるのでしょう。塾通いで帰りも遅くなるので,遅寝にもなると。中年女性の寝不足のレベルは,地域によって異なることがうかがわれます。
では,他県のデータもみてみましょう。末子が高校生の男女(父母)の平均睡眠時間一覧表をつくってみました。
育児と介護のダブルケア年代ですが,平均睡眠時間は県によってかなり違っています。女性でみると,342分から432分までの幅があります。最も短い和歌山では,わずか342分(5時間42分)。分布をみれば,5時間未満の母親も少なくないことでしょう。
女性の平均睡眠時間の赤字は,360分(6時間)に満たない数値です。首都圏(1都3県)は,見事に赤色です。都市部のママは寝ていないようです。
右欄の性差は,男性との差ですが,鳥取と熊本では,女性の睡眠時間が男性よりも2時間以上短くなっています。鳥取では,男性は8時間寝ているのに対し,女性は6時間寝ていないと。性差の赤字は,男女の差が60分(1時間)を超える県です。
女性の睡眠時間が6時間未満で,かつ男性との差が60分を超える県(赤字2つ)を拾うと,神奈川,和歌山,鳥取,福岡,熊本の5県となります。これらの県では,中年女性のダブルケア負担が大きいこと,それが女性に偏していること,という問題が提起されるかもしれません。
最後に,高校生の子がいる母親の平均睡眠時間(上表の中央欄)をマップにしておきます。4つの階級を設け,各県を塗り分けてみました。
白色は360分(6時間)未満の県ですが,首都圏や近畿圏といった都市部がこの色になっていることに注目。子どもの遠距離通学に加え,介護施設が不足している都市部では,在宅介護に伴う負担があるのかもしれません。
日本人は世界一寝ていないのですが,とくにそうなのは中年女性,それも都市部居住の中年女性であることを知りました。このように詰めていくことで,対策の重点層が見えてきます。
資源は有限です。全国一律ではなく,時には資源の傾斜配分も必要。その判断材料として,こういうデータが必要であることは,申すまでもないことです。