働く人間の収入(income)は男女で異なり,また正規と非正規でも違います。われわれにすれば,空気のように「当たり前」の現実になっていますが,他の社会ではどうなのでしょう。異国の空気にも触れてみましょう。
私は,フルタイム就業者の年収が男女でどう違うか,女性就業者の年収がフルタイムとパートでどう違うか。この2点を国ごとに調べてみました。フルタイムとパートの比較を女性で行うのは,男性ではパートのサンプルがあまりに少ないためです。
就業者全体の国際比較はよく見ますが,このように属性を絞った比較はあまりないのでは,と思います。
資料は,ISSPが2009年に実施した『社会的不平等に関する国際意識調査』です。ISSPの意識調査には,もっと新しい年次のものがありますが,就業者の地位(フルタイム or パート・・・)を訊いているのは,この調査だけのようです。
http://www.issp.org/page.php?pageId=4
下表は,日本の各群の年収分布です。上記調査のローデータを独自に集計して作成しました。年齢は,25~54歳に絞っています。年収の階級は,原資料では階級値で示されています。250万とは,年収200万円台のことです。
何の加工もしていない実数表ですが,女性より男性,パートよりフルタイムが高いほうに分布しているのが見て取れます。赤字は最頻値(Mode)です。
この分布から,それぞれの群の平均年収を出しましょう。フルタイム男性の平均年収は,以下のようにして出ます。
{(0円×2人)+(50万×1人)・・・+(2000万×4人)}/207人=515.7万円
フルタイム女性は298.0万円,女性パートは120.3万円です。
したがって,男女差は 515.7/298.0=1.731倍,女性内の地位差は 298.0/120.3=2.476倍となります。予想はしていましたが,やはり差があるものですねえ。
われわれからすれば「まあ,そんなものだろう」ですが,国際的にみると,どうでしょう。以下に掲げるのは,同じやり方で計算した,国別の格差倍率の一覧表です。各国の通貨による年収分布からはじき出した倍率であることを申し添えます。
「**」は,パート女性の分析対象サンプルが少なかったため(50人未満),計算を見送った箇所です。
日本は,男女差は中国に次いで2位,女性内の地位差は南アフリカに次いで2位となっています。男女差1.7倍,地位差2.5倍というのは,先進国の中では抜きん出ています。われわれの社会では見慣れている収入格差って,普遍的でも何でもないようです。
ベルギーは,格差が小さいですね。オランダの同一労働・同一賃金政策は知られていますが,隣のこの国でもそうなのでしょうか。
日本の外れっぷりが分かるグラフも載せておきましょう。横軸に性差,縦軸に地位差をとった座標上に,両方が分かる18か国を散りばめてみました。
現状では,右上に昇天していますが,左下に下っていかねばならないことは明らかです。
横軸の男女差ですが,これじゃあ,「政府が女性の社会進出を推奨するのは,人件費を抑制するためじゃないか」と言われても反論できますまい。
https://twitter.com/usagihara/status/722236541850943488
縦軸の地位差についても,フルタイムとパートの差が2.5倍にもなるようでは,多様な働き方は浸透しにくい。想像ですが,男性では差がもっと顕著でしょう。言葉がよくないですが,「正社員にあらずんば人にあらず」の社会です。
北欧のスウェーデンでは,幼子がいる場合,「夫婦ともパートでよい」という意見が強いのですが,パートという働き方をしても,ある程度の賃金が保証されるためでしょう。
http://tmaita77.blogspot.jp/2015/10/blog-post_11.html
労働力不足が深刻化する中,男性か女性か,フルタイムかパートかで敷居を作っている場合ではありません。わが国でも同一労働・同一賃金に向けた議論が出てきましたが,ようやく問題に気付き始めたということで,めでたいことです。かけ声だけでなく,実行に移さねばならない。それは,国際比較のグラフをみても支持されます。