2月7日の記事において,大学院博士課程の修了者の進路は,20年前とほとんど変わっていないことを示しました。しかし,これは修了時点の状況であって,その後,辛い思いをする人間が増えていることを示唆する統計があります。大学の非常勤教員の増加です。
大学関係者ならば誰もが知っていることですが,大学教員には,本務教員(専任教員)と非常勤教員という2種類の人種がいます。後者は,本務校のある教員や,著述業など他に本業のある人間が掛け持ちしている場合もありますが,そうでない場合がほとんどです。非常勤教員の大半は,他に本業がなく,それだけでやっている者が大半であると思われます。たとえば,博士課程を出ても定職がない者です。統計をみると,こうした非常勤教員が増えているのです。大学と短期大学の教員の組成が,最近どう変化したかをみてみましょう。
上記の表は,文科省『学校基本調査(高等教育機関編)』から作成したものです。ここでいう非常勤教員とは,兼務教員のうち,「教員以外から」の者のことです。表をみると,この約20年間において,非常勤教員は5万8千人から13万4千人へと2.3倍に増えています。本務教員の増加倍率(1.3倍)を大きく上回っています。その結果,大学教員全体に占める非常勤教員の比重も増加し,2009年では42%にもなっています。
大学と短期大学に分けて,非常勤教員の比率の変化をたどってみると,上のグラフのようになります。双方とも右上がり傾向です。短大では,2009年では61%にも達しています。本務教員よりも非常勤教員のほうが多いわけです。短大は,安上がりの非常勤教員をフル活用して,目下の経営危機を乗り切っている,というのが実情のようです。
こうみると,1990年代の大学院重点化政策は,負の遺産を遺した側面も否めないようです。かつては,博士課程修了後,何年かすれば定職にありつけたのでしょうが,修了者がうんと増えた今日では,それはなかなか叶わない。よって,長期の間,非常勤一本で生計を立てざるを得ない者が増えた,ということでしょう。文科省の修了時点での進路統計からは見えない現実がここにあります。
とある中堅私立大学が,「本学に~研究科博士課程開設。新たな可能性への扉がまた一つ開かれました」と宣伝していました。「新たな可能性」の箇所を「地獄」と書き直せば,正直な記述になると思います。