近年,小学校教員の離職率が伸びているのですが,とくに,若年教員において,その傾向が強いようです。今回は,20~30代の若年教員の離職率が高いのは,どういう地域かを明らかにしようと思います。
私は,2006年度間における,20~30代の小学校教員の離職率を,都道府県別に明らかにしました。ここでいう離職率とは,2006年度間における理由不詳(「その他」)の離職者数を,2007年10月1日時点の教員数で除したものです。統計の出所は,文科省『学校教員統計調査』です。
なお,分母の教員数は公立学校のものであることを申し添えます。各県の年齢別の教員数は,公立学校のものしか掲載されていませんでした。小学校の場合,国私立学校はとても少ないので,このような便法をとっても大勢に影響はないと思われます。
東京都の場合,分子の離職者数は136人,分母の教員数は11,286人ですから,離職率は12.1‰と算出されます。全国値(12.4‰)よりもやや低くなっています。他の県では,どうなのでしょうか。47都道府県の離職率の値を地図化しました。
5‰ごとに塗り分けています。20‰(=2%)を超える高率地域は,千葉,神奈川,山梨,愛知,奈良,和歌山,徳島,そして福岡の8県です。最も高いのは,福岡で37.1‰にもなります。逆に最も低いのは,秋田と高知の0‰です。この2県では,2006年度間に,理由不詳の離職者は1人もいませんでした。
はて,若年教員の離職率が高い県とは,どういう地域なのでしょう。昨年12月25日の朝日新聞に,精神疾患による教員の休職率の記事が出ていましたが,都市的な地域の率が率が高いことについて,久冨善之教授は,「教員より学歴が高い保護者が多く,学校への要望が厳しいことも,率を引き上げているのではないか」と指摘しています。
この伝でいうと,高学歴人口が多く,学校への要求が厳しいような県において,ここでみている離職率も高いものと推察されます。この仮説を検証してみましょう。
私は,2000年の『国勢調査報告』の統計から,大学・大学院卒の学歴を持つ者が,学校卒業者全体に占める比率を,都道府県別に出しました。この値の地域差をみると,最も高い東京の24.2%から,最も低い青森の7.2%まで,大きな開きがあります。東京では,住民の4人に1人が高学歴者ですが,青森では14人に1人という具合です。この高学歴人口率と,先ほど明らかにした若年教員の離職率の相関関係を調べました。
上図は,両指標の相関図です。傾向としては正の相関です。相関係数は0.304であり,47というサンプル数を考慮すると,5%水準で有意であると判定されます。ちなみに,離職率が際立って高い福岡と徳島の2県を「外れ値」として除外すると,相関係数は0.491に跳ね上がります。1%水準で有意です。
傾向としては,高学歴の住民が多い県ほど,若年教員の離職率が高いようです。2006年5月,採用されて間もない23歳の女性教員が自殺するという事件がありましたが,その原因として,保護者にいろいろと言われた,というようなことがあったそうです。
こうみると,久冨教授の指摘も,さもありなん,という感じです。現在,教員養成の期間を6年に延長し,教員志望者には修士の学位を取らせようという案が出ています。社会全体の高学歴化に対応すべく,教員の学歴水準を一段高くし,威厳の基盤を確保しよう,という意図があってのことと思われます。
もっとも,若年教員の離職率を規定するのは,住民の高学歴化というようなものだけではないでしょう。教員組織に占める若年教員の比重,教員養成系大学出身者の比重,教員の給与水準,さらには教育委員会の管理の度合いなど,他にもいろいろな要因が想起されます。これらをすべて取り込んだ重回帰分析を,機会を見つけて手掛けてみようと思います。