2010年の12月20日の記事では,子どもの肥満化が進んでいることを明らかにしました。外遊びの減少や,食習慣の乱れのためと解されます。こうした問題を受けて,今の学校現場では,食育の実践が重視されています。
しかし,肥満化が進んでいるのは,成人についても同じでしょう。長時間のデスクワークの増加など,運動不足を招いている要因は数多く想起されます。食習慣の乱れについても,昨年の1月29日の記事でみたように,朝食欠食率のような指標が若年層を中心として高まってきています。
今回は,20歳以上の成人男性について,肥満と判定される者の比率を明らかにしてみようと思います。以下,簡単に肥満率ということにします。
まずは,成人男性の肥満率がどう変わってきたかをみてみましょう。1980年(昭和55年)以降の時期について,5年刻みのピンポイントで比率を拾ってみました。ソースは,厚労省『国民健康・栄養調査報告』の2010年版です。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/eiyou/h22-houkoku.html
前後しますが,この資料に載っている肥満率とは,BMIという指標の値が25を超える者の比率です。BMIとは,Body Mass Indexの略で,体重(kg)を身長(m)の2乗で除した値だそうです。私の身長は1.76mですが,この場合,体重77.4kg以上の者が肥満と判定されることになります。私は今,だいたい70kgほどですが,公的統計の基準では,まだ肥満の域に達していないようです。安堵。しかし,出っ腹は隠しようがないのですが。
下表は,この意味での肥満率の推移をとったものです。年齢によって様相は異なるでしょうから,10歳ごとの年齢層別の数値も掲げています。
最下段の全体の推移からみると,この30年間で成人男性の肥満率は上昇してきています。1980年では17.8%であったのが,1990年には22.3%と2割を超え,2010年現在では29.3%と3割に迫る勢いです。しかるに,今の中高年層では,既に3割を超えています。2010年でいうと,最も高い50代男性の肥満率は37.3%です。3人に1人が肥満と判定されることになります。
上表のデータを,統計図によって表現しておきましょう。下図は,それぞれの年の各年齢層の率を等高線図で表したものです。本ブログを長くご覧頂いている方はお分かりかと存じます。時代×年齢の「社会地図」図式です。時代と年齢による値の変異を,上から俯瞰できる仕掛けになっています。
近年,中高年層の箇所に,高率ゾーンが広がっていることを読み取っていただけたらと思います。黒色は,35%を超えることを示唆します。今後,このような膿(うみ)がますます広がっていくとしたら,それは怖いことです。
ところで,よく話題になることですが,米国では,国民の肥満化が日本とは比較にならないほど進行しています。国際基準では,BMI30超が肥満とされています。"OECD Health Data 2012"によると,BMIが30を超える者の比率は,米国では35.5%にもなります(2010年)。日本は,3.8%です。
http://www.oecd.org/health/healthpoliciesanddata/oecdhealthdata2012.htm
BMIが30超ということは,私と同じ身長(1.76m)の人間の場合,体重が93kgを超える計算になります。1.65mの場合は,82kg超です。米国では,国民3人に1人がそのような輩であることになります。このような状況を受けてか,大都市のニューヨークでは,「糖分の多い炭酸飲料などについて,16オンスを超える大型の容器で販売することを禁じる措置」を取ったとのこと。
http://www.yomiuri.co.jp/atmoney/news/20120916-OYT1T00514.htm
しかるに,この国において,肥満状態になっている人間の多くが貧困層であることもよく知られています。安価なジャンクフードに依存する度合いが高いからです。こうした貧困と肥満の結びつきは,わが国においても観察されます。昨年の1月12日の記事では,東京都内49市区の統計を使って,生活保護世帯率と小学生の肥満児率が強く相関していることを示しました。
国民の肥満化は,各人の運動不足や食習慣の乱れに起因することは疑い得ないところですが,その基底には,格差社会化のような社会変化があることを看過すべきではありません。わが国において,肥満化の進行が止まるかどうかは,食育基本法や食育推進基本計画に盛られた理念や数値目標の実現の度合いと同時に,もっと大きな政策の有様にも依存すると考えられます。